迎春記

しがないゲイの日常

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さようなら、我がイマジナリー彼女(2024/2/29)

父親がけがをしたと母親からLINEが来た。テニス中に転倒して肩の骨にヒビが入ったらしい。全治まで3か月。ついに自分の親もそういう年になったのかと思う。これはつまり、頭の中の動きに身体が追いついていない証拠である。母親曰く「元気なんだけど、右手が使えないから暇そうにしてる」らしい。頭でなく良かったなと思う。

それにしても転倒して肩をケガするというのは、どういうこけ方だったのだろう。バランスを崩したとして、受け身に出るのはまず手であるはずだから、けがをするなら手首じゃないだろうか。肩......?

そのシーンについて考えてみたけれど、転倒の勢いを使って肩から地球タックルしたとか、あるいは転倒したところへ肩にトドメの波動球を食らったくらいしか思い浮かばなかった。いや後者だとしたら、"転倒して肩の骨を折った"とは言わない。母親からの連絡も「お父さんが波動球を食らって肩の骨にヒビが入ったのよねぇ」となるはずである。ということは前者か。 いや、地球タックルもおかしい。

 

年齢を重ねることによる身体の変化は、親に限らず当然私にも起こっている。最近気が付いたところでいうと、鼻毛の中に白い毛を見つけた。頭髪の中の白髪は、20台の後半からすでに増えてきたなぁと思っていたのだが、鼻毛の中に見つけたのは初めてだった。

気が付いたのは口ひげをそっている時。鼻の下を伸ばして髭を剃っていると、鼻孔にキラリと光る1本の光の筋があった。最初は鼻孔を渡る鼻水の糸に光が反射しているだけかと思ったのだが、口元を戻すとそれは鼻孔外に跳ね出してきた。「あ鼻毛だったんだ〜......白髪?!」と軽く驚いた。すると不意に頭に浮かんできたのは村山富市元首相の顔だった。おそるおそる眉毛の確認もしてみる。白髪は見つからなかった。

もう一つトリッキーなところから自分の加齢に気が付いたことがある。それはパーソナルトレーニングのセッション中の出来事である。

インターバル中の雑談でトレーナーが「◯◯さん(=私)ってご結婚はされてるんですか?」と聞いてきた。私のことを知ろうとしてくれているのだとは思うが、昨今の時流に慣れすぎていて、この手の質問をされるのは久しぶりだった。流石に嘘はつけず「いやしてないですよ」と答える。するとトレーナーは「彼女は?」とさらに突っ込んできた。まずい。この話題、膨らめようとしてる。

こういう時、私は実際の恋人を女性に置き換えて話すという常套手段で乗り切ってきた。ただし7個上という年齢はツッコミ要素になってしまうので、2個下というありがちな設定に変えて話す。いつもの癖で今回もその手を使ってしまったのだが、これが間違いだった。

トレーナーは「え」と少し驚いたあとで「......そろそろ結婚の話とかされません?」と聞いてきた。そのちょっと心配したようなトーンに私はハッとする。"私の2個下の彼女"ということは、今年32歳の女性ということになる。結婚の話が出ても当然の年齢。私が相対的な年齢設定をしたがために、彼女もまた歳を取っていたのである。

答えに詰まった私は「そうなんですよねぇ~」と遠い目をして答えた。俺には結婚したいけどできない事情がある。そこは聞いてくれるな。言外でそんな雰囲気を醸し出した(つもりである)。そんな私の思惑が伝わったのかどうかは不明だが、トレーナーはそれ以上突っ込んでくることはなく、インターバルが終わった。

この件を経て、私は今後「2個下の彼女作戦」はやめようと思った。20代はそれなりに良い躱し手になっていたが、34歳になるとそれは悪手だということがよくわかった。そもそも彼女がいるだなんて見栄を張るのが良くない。これからは堂々と「彼女はいません!!」と言っていこう。今までありがとう。私のイマジナリー彼女。