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クイズプレイヤーの頭の中ってすごい(#56_小川哲『君のクイズ』)

小川哲さんの『君のクイズ』を読んだので、あらすじ紹介と感想。

君のクイズ

君のクイズ

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あらすじ

優勝賞金は1,000万円。"野球でいう日本シリーズのような大会"を目指して企画されたクイズ番組『Qー1グランプリ』の決勝戦で、主人公の三島玲央は、本庄絆と対峙していた。相手は東大医学部の4年生。中学二年で気象予報士、高校一年で公認会計士の試験に合格し、歴代アメリカ大統領や百人一首完全暗記などの暗記エピソードで世間に認知されている。そんな人智を超えた記憶力から、番組側が付けた二つ名は「世界を頭の中に保存した男」。とはいえクイズ歴はまだ浅い。クイズ大会であれば、中学の頃から競技クイズの場で経験を積んできた自分の方に分がある、と三島は思っていた。

ところが決勝戦。7問先取の早押し問題対決を「6-6」で迎えた最後の問題において、本庄絆は問題文が一文字も読まれる前に回答ボタンを押し、そして正解した。この不可解な結末には三島のみならず、敗退していったその他の大会参加者、そして番組を見ていた視聴者も巻き込んだ議論となる。"番組はヤラセだったのか"。番組制作側から納得のいく説明がない中、本庄絆がなぜ最終問題に正解できたのかを知るため、三島は決勝戦の問題を1問ずつ振り返っていく。

感想

まず「新しい!」と思った。本作が『日本推理作家協会賞』を受賞していることからも、カテゴリーとしては推理小説に分類されるものなんだろうけど、こんな謎が提起される推理小説は初めてだった。これまで私が読んできた推理小説は「この殺人事件の犯人は誰なんだ」とか「この不可解な現象の原因は何か」「私の夫は何者だったのか」みたいな、大体警察や探偵が絡んでくるような事件もの。それに対して本作で提起される謎は「なぜ本庄絆は最終問題において、一文字も読まれていないクイズに正答できたのか」である。新しすぎた。読み始めたら、結末が気になりすぎて一気読み。

この物語構成からして既に面白いのだが、三島が中学校の体験入部でクイズと出会い、次第に人生の一部になっていく過程の描き方が具体的ですごい。まるで本当にクイズ中心の人生を送ってきた人物が書いたかのようだった。参考文献にQuizKnockの伊沢拓司さんの著作が載っていたので、何度も読み込んだに違いない。

世界は知っていることと知らないことの二つで構成されています。知っているということは、これまでの自分の人生に関わっていたということです。

「ピンポン」という音は、クイズに正解したことを示すだけの音ではない。解答者を「君は正しい」と肯定してくれる音でもある。

この辺とか伊沢さんが憑依していたとしか思えない。作家さんの取材力が如何に高いのかということを、はるか遠くから垣間見たような本でもありました。面白かった~。