久々に読んだ本の感想をまとめます。「なんで"47冊目"からなの?」と思った方は、X(旧Twitter)で「#迎春読書録」を検索してみてください。
- 【47冊目】綾辻行人『Another 2001(上)(下)』
- 【48冊目】ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO』
- 【49冊目】僕のマリ『書きたい生活』
- 【50冊目】朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』
【47冊目】綾辻行人『Another 2001(上)(下)』
"古畑任三郎版"の『Another』
帰省する前、何か本を買って帰ろうと思い本屋に立ち寄ったら、自分の知らない間に綾辻さんの本で大好きな「Another」シリーズの3作目となる続編が出ていて(、というか既に文庫化までされていて)購入しました。このシリーズ、恩田陸さんの『六番目の小夜子』のような"学校に古くから伝わる奇妙なしきたりもの"なんですが、こういうダークな世界観が私は大好きです。
Anotherの世界観をざっくり説明すると、以下のようになります。
舞台となる「夜見山北中学校」の三年三組には、数年に一度クラスに〈死者〉が紛れ込み、そのせいで始業式の日に机の数が1つ足りなくなる不思議な〈現象〉が起こる。そしてその〈現象〉が起こった年は、"〈災厄〉がある年"と呼ばれ、毎月クラスの関係者が不慮の事故で死んでいく。〈死者〉はいったい誰なんだ?どうやったら〈災厄〉が止められるんだ?......といった具合の学園ホラー&ミステリーです。
3作目となる本作は、1998年の出来事を描いた1作目から3年後の2001年が再び〈災厄〉のある年となってしまったところから始まります。〈死者〉の設定はもちろん引き継がれますが、面白いのは物語の序盤で今年紛れ込んだ〈死者〉が誰なのかが、1作目を読んだ読者にだけわかるように提示されるところです。1作目が「金田一少年の事件簿」ならば、この3作目は「古畑任三郎」形式の展開ということ。
再度このシリーズを読んでみて改めて思いましたが、どこがどう伏線だったのかということをしっかり説明してくれるところが嬉しいですね。物語の終わりに「fin.」ではなく「Q.E.D.」と打ちたくなるような明快さがあります。案の定、自分でも気づいていないようなところが伏線になっていたりしました。読者に解釈を委ねるような、後味モヤっと系ホラーがあまり好きではない方におすすめです。読む際は必ず1作目から。
(読書期間:2023/8/13~18)
【48冊目】ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO』
人生の豊かさを最適化するための本!なんだけど......
タイトルの通り「お金を使い切って死のう」という趣旨の本です。もう少し誤解が無いように言えば「必要以上にお金を溜めこむのはやめよう」といったあたりですかね。でも決して無駄遣いをしろという訳でもなく、むしろお金の使い方をしっかり考えろというメッセージだと感じました(その証拠に〈スタバのコーヒーを毎日買っているあなたへ〉という章があります)。そして、その時にしかできないやりたいことには惜しみなくお金を使うことで、人生の豊かさを最大化しようというのが著者の主張です。全くもってその通り。
一つだけ苦言を呈するとしたら、紹介されているエピソードにちらほら庶民感覚を無視したエピソードが登場するということです。例えば、"その時にしかできないこと"をした一例として、著者が自分の45歳の誕生日に旧友を招いてパーティを開催したエピソードが登場するのですが、そのパーティが庶民からしたらツッコミどころしかない。以下、全文の引用です。
〈招待客の宿泊施設には、閑静な白いビーチに建てられたホテル・タイワナを貸し切りで利用することにした。全22室の客室とスイートルームを一週間分だ。参加者全員の宿を確保s......はいストップストップ。いったん引用止めてー。
ホテル貸し切り?スイートルーム?何それ分からない。(ちなみにこの後も、全員分の航空券、ボートツアー、ピクニック付き等々しばらく難読箇所が続きます)
こうした「なるほど!」というよりは「は?」と感じるエピソードがところどころに現れますが、その時は心を無にして見なかったことにするか、自分の身の丈に合わせてスケーリングして読み進めていただくのが良いかと思います。
さぁお金貯めて、来年は海外旅行に行くぞ!
(読書期間:2023/8/24~9/6)
【49冊目】僕のマリ『書きたい生活』
私がブログを書きたいと思う理由は多分コレ
著者のデビュー作『常識のない喫茶店』の続編で、喫茶店での仕事を辞めてパートナーと二人暮らしを始めるまでのエッセイ集のようです。"のようです"というのは、私が続編という位置付けの本だとは知らずに、先に本作を買ってしまったから。帰省の帰りに立ち寄った蔦屋書店のエッセイコーナーにこの本が面陳列されていて、装画が好きだったから思わず手に取りました。エッセイだし特に問題はなかったけれど、読み通してみるとやっぱり"2巻から読んでしまった感"はあります。
購入の決め手だったのは、自分がブログのモチベーションになっている感情がズバリ言語化されていたところ。〈言わなかったことや言えなかったことがなかったことにならないで欲しい〉とか〈書くことは筋トレに似ていると思う〉とか。今まで何となく文章を書くのが好きだからという理由でブログをやってきたけど、その源泉はこの辺りの感情から来ている気がしています。買って良かった本です。『常識のない喫茶店』の方も読もう。あと日記パートを読んでいたら、自分もまた日記を再開したくなりました。毎日はちと厳しいけど。
(読書期間:2023/9/7~9/9)
【50冊目】朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』
全っ然、ハートフルストーリーじゃなかった
1章では本作のメインキャラクターの一人「堀北雄介」が植物状態で眠る友人「南水智也」の病室を足繫く通う様子が描かれます。いつ目覚めるかわからない、ひょっとしたらもう目覚めないかもしれない友人の病室を「目覚める瞬間には絶対立ち会いたい」と言って病室に通い続ける雄介。一見するとハートフルストーリーの幕開けのような印象を持ちますが、これが大間違い。物語は、雄介、智也に関わる複数の人物の物語を描きながら、二人の全っ然ハートフルじゃない関係性が明らかになっていきます。
物語の舞台は平成の北海道。人と違う生き方も「多様化」という名のもとで徐々に認められていく一方で、自分にとっての正解を自分自身で見つけなければいけない難しさを知った平成時代。そんな平成において、登場人物たちが生きがいを求めて空回りし、自滅していく様子が描かれています。「生きているだけで価値がある」「頑張らなくても良い」。こういう言葉で必死に蓋をしてきた自分の中にある生々しい感情を抉り出されたような読後感でした。
ちなみに、本作は伊坂幸太郎の呼びかけで企画された〈螺旋プロジェクト〉に参画する作品の一つです。"共通ルールを決めて原始から未来までの歴史物語を描こう"というプロジェクトの「平成時代」に当たります。このプロジェクトは全部で8作品あるらしいので、他の作品も時期を見て読みたいと思います。
(読書期間:2023/9/10~9/19)
以上、久々の迎春読書録でしたー。