迎春記

― しがないゲイの小噺 ―

晴れ男卒業の儀(豪雨の京都編)

(前回までのあらすじ)
2021年8月14日。西日本が災害級の豪雨に見舞われることを知りながら、天橋立旅行に踏み切った私と恋人。案の定、京都駅からの特急電車『はしだて1号』は、豪雨の影響で天橋立まで行かず、福知山止まりの電車となっていた。列車の発車まではあと3分。果たして私たちが取った行動とは......。

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今や『ふくちやま1号』となってしまった"元"はしだて1号の前で、まず行動を起こしたのは恋人の方でした。

 

「よし!じゃ福知山までこれで行って、そこからはタクシーで天橋立まで行こう!!」

 

オッk......ん?????

 

自信満々に電車に乗り込んだ恋人に続いて、思わず乗り込んでしまいましたが、福知山〜天橋立の距離感がわからないので、ただただ不安でした。果たして一体いくらかかるのだろうか。しかし、迷ってる時間はありません。発車まではもう3分もないのです。自分たちの予約した座席を探し、どんどん車両の奥へ進む恋人の後ろで、私は急いでGoogle Map検索をかけてみました。

 

51kmありました。

 

恋人がその程度の距離は当たり前だと思っているのか、ただ単に勢いで言っているのか測りかねましたが、少なくとも私の金銭感覚からいって、51kmのタクシー移動など正気の沙汰とは思えませんでした。「ちょっと待って。タクシーじゃ無理だよ。51kmあるよ」と慌てて待ったをかけると、恋人が足を止めました。

「え、そんなにあるの?」

勢いだったみたいです。良かった。謎の安心感に包まれた私は、「とりあえず1回降りよう」と電車を降りました。電車の発車まであと2分。

しかし、片道約15,000円かけて京都に出てきているのです。何かしら成果を出したいという気持ちがあるのも事実。偶然にも福知山には、当初から「福知山城で御城印をゲットする」という目的がありました。そう思った私は「福知山の1泊旅行ならできそう」と言って、再び列車に乗り込みます。今度は私に続いて恋人が電車に乗り込む番です。

予習では福知山はそれほど大きな街では無いようでしたが、るるぶの中では"スイーツの街"として特集されていました。元々の予定では無かったけれど、街中に点在するスイーツ店を巡りながら街散策なんかしても良さそ......

いや待て待て待て待て。豪雨の中で街散策?それもまた正気の沙汰じゃなくない??ものの数分で傘が吹き飛ばれ全身がずぶ濡れになる未来しか見えないんですけど。電車発車まであと1分。

「やっぱやめよう」

どっちどっち?と混乱する恋人をホームまで押し戻し、私たちは列車を降りました。そして間もなく発車のベルが鳴ると、元はしだて1号は福知山に向けて出発していきました。

去っていく元はしだて1号の後ろ姿を見送りながら、私は豪雨の福知山を楽しむビジョンが思い浮かばなかったことを恋人に説明しました。恋人も「福知山は宿の数も少なそうだし、今日は京都から動かない方が良いかもね」と、どこかホッとしたような表情でそれを見つめていました。

その後、雨の吹き込む30・31番ホームで落ち着いて話し合いをした結果、京都で1泊旅行にしよう、という現実的な結論に至りました。私たちは、特急券を払い戻し、天橋立のちょっと良い感じのホテルと、竹田に唯一あった古民家風の旅館にキャンセルの電話を入れると、プランBの詳細を詰めるべく、駅内にあったスタバに入りました。議題はずばり、京都で何がしたいか、です。

 

「嵐山に行きたい」

 

ここでもまず声を上げたのは恋人の方でした。私も嵐山周辺はまだ訪れたことがなかったので興味はあります。しかし、当然"あの考慮"が必要です。果たして豪雨でも楽しめるのか。

私は嵐山の現在の様子を調べるべく、渡月橋のライブカメラを見たり、Twitterで嵐山関連の最新ツイートを検索してみたりしました。すると雨は降っているものの、傘を差しながら観光している人はいるようです。

大丈夫そうだから行ってみようか、そんな結論を出そうとした時でした。私は気になるツイートを見つけました。

桂川また氾濫したりしないよね...

 

え昔氾濫したことあるの?

 

すかさず「桂川 氾濫」で検索をかけます。

 

桂川氾濫、渡月橋付近で浸水被害30件超 京都・嵐山

京都の桂川、氾濫危険水位に 嵐山の渡月橋が消える

 

氾濫してました。

 

『はしだて1号』の一件で、自分たちは"持っていない"し、ニュースの注意喚起には従わなければいけないという当たり前の現実を突きつけられた直後の私には、もう嵐山観光を強行するような勢いは残っていませんでした。私の調査結果を聞いた恋人も素直に嵐山行きを諦め、計画は振り出しに戻りました。

その後も今日の天気で楽しめる場所を検索してみる私たちでしたが、なかなか候補となるスポットは見つかりませんでした。わかったのは「京都 雨」であれば、雨でも楽しめる場所をいくつも見つけることができるけれど、「京都 豪雨」だと過去の京都の豪雨災害情報しかヒットしなくなるということです。結局、この天気で京都に1泊する価値が見出せず、恋人の「......もう今日は東京に帰ろうか」という言葉でプランBすら断念することが決定しました。

しかしまだ10時前。せめて少しでも京都に爪痕を残して帰りたい。そう思った私たちは、電車で回れる範囲で有名なところに行ってみようということになりました。

最初の目的地となったのは「二条城」です。京都駅からは地下鉄を乗り継いで15分くらいの距離ですし、御城印もあります。ようやく今回の旅行の落とし所を見つけた私たちは、単なる重りと化した2泊3日用の大きな荷物をロッカー預け、地下鉄のホームへと向かいました。

しかし、このわずか15分の地下鉄移動ですら、この豪雨の中では一筋縄にはいかないのです。

まず烏丸線で烏丸御池に到着した時、乗り換え先の東西線が大雨の影響で止まりました。そして程なくして今度は今まで乗っていた烏丸線も運転見合わせとなり、前にも後ろにも進めない状態に。いよいよ今回の豪雨が只事ではないことがわかってきました。

幸い、調べてみると烏丸御池から二条城は1kmもありません。私たちは、もうここまで来てしまったのだからと、そこから歩いて二条城まで行くことにしました。

駅から地上に出てみると、雨はちょうど小降りになっていました。

「思ったより雨ひどくないね」

「これでも電車止めちゃうんだね」

と、降水量予報図の色が"薄い水色"だから旅行は問題ないと思っていた私たちは、鉄道会社各社の安全に対する意識の高さを思い知りました。

 

二条城へは10分ほどで到着しました。案の定、人はほとんどいません。ですから、城内の豪雨の中で観光に踏み切った他の猛者たちには、どこか親近感が湧きました。

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世界遺産に裸足+サンダルで乗り込む男

きっと今日はここしか回れないだろうということを薄々感じていた私たちは、展示一つ一つの説明をじっくり読みながら回り、国宝の「二の丸御殿」を出る時にはお昼近くになっていました。その頃には、雨も再び激しい雨に戻っていました。

本当は二条城以外にも、夕方くらいまでは京都を回ろうと思っていましたが、地下鉄は軒並み止まっているし、この具合だと下手したら上りの東海道新幹線も止まりかねないと感じた私たちは、これ以上の観光は断念し、タクシーで京都駅へと戻ることにしました。

 

こうして私たちの2泊3日旅行のはずだった夏休みは、滞在時間わずか3時間ほどの京都観光で幕を閉じました。戦利品は、二条城の御城印と「降水量予報図の色で判断をしてはいけない」という教訓だけ。

 

あ、あともう一つありました。

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551の豚まんです。

いつも行列ができていて買えなかった豚まんが、この日は並んでいる人が全くいなかったので、購入することが出来ました。私にとっては初の551の豚まんです。新幹線内に美味しそうな匂いを充満させてしまったことは申し訳なかったですが、文句なしで美味かった!

 

以上が私たちのtake1の天橋立旅行の思い出です。天橋立、行ってないですけど。

決して楽しい思い出ではなかったんですが、いつかまた振り返った時に「あの時の俺ら、本当馬鹿だったよねぇ〜」と笑い話くらいにはなった気がします。むしろ年取った時には、こういう失敗談の方が覚えていそうですよね。

まぁもう豪雨に旅行を強行することはないと思いますけど。