迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

甥の名は。

今月から義姉が産休に入りました。

母親を経由して妊娠を知ったのが去年の年末。春先には男の子だと言うことがわかって、ゴールデンウィークの最終日に家族でご飯を食べた時には、服の上から分かるくらいお腹も大きくなってきていました。

生まれてくる子供を待つのは最初で最後かもしれないという思いからか、この半年間、義理姉の妊娠のことを思うと、まるで自分事のように楽しみと不安とが入り混じったような気持ちでした。その不安の方を取り除きたくて、初詣のときに"安産祈願"のお守りを買おうかと思ったくらいです。

ですが自分の余計な行動がマイナス方向に働いたら大変だと思い、元気な赤ちゃんが産まれてくることを、遠くから静かに祈ることにしました。

ゴールデンウィークに家族で集まった時には、義姉からマタニティフォトを見せてもらいました。ゼクシィの表紙のモデルがかぶっていそうな花冠を頭に乗せ、短い丈の白いトップスとパステルグリーンのフレアスカートに身を包み、大きくなったお腹には"Welcome to my sweet baby"と書かれたタトゥーシールが貼られていました。何という眩しさ。気がつくと頭の中では木村カエラの『butterfly』が流れ出しました。

他にも母親が持ってきた兄と僕が子供の頃の母子手帳をみんなで見たりと、この日は赤ちゃんが話題の中心。到底入ることのできない輪の中で、僕の頭は親からの突然のキラーパスに備えて臨戦体勢となっていました。

その団欒の中で、母親が義姉に「そういえば、名前はもう決めたの?」と尋ねました。これはナイスパス。確かに、それは気になります。

義姉は兄と一瞬目配せをすると、恥ずかしそうに歯にかみながら「実は決めてます...」と言って、僕の甥になる子の名前を教えてくれました。

「ちあき」、だそうです。

漢字を教えてもらうと、家族の名前から一文字取った名前というわけでは無さそうだったので由来を聞くと、予想外の答えが返ってきました。

「2人で話し合って、将来女の子として生きたいって言われた時も大丈夫なように中性的な名前にしようと思ったんです」

そして中性的な名前の候補の中で画数が良かったのが、「ちあき」だったと。

親からのキラーパスに神経を集中させていたら、その遥か後方から兄と義姉の連携による見事なロングシュートが決まったような気分でした。一瞬何が起こったかわからず、頭が真っ白になりましたが、義姉の言った言葉の意味がわかってくると、じわじわと暖かい何かが胸の奥を満たしていき、やがてそれは上へ上へと込み上げると、両目を暖かな層で包みました。

ちあき。聞いた瞬間は良くある名前の一つとしか思いませんでしたが、由来をセットで聞くと、まるでただ一つの解のようなしっくりさを感じてしまいました。後付け感すごいですけど。

最近のLGBT関連法案を巡る残念な議論に、さすがに日本遅れすぎじゃないかとがっかりしていたのですが、もっと末端の身近なところでは、少しずつジェンダー意識が良い方向に変わってきているのかもしれないと希望のようなものが感じられました。