迎春記

― しがないゲイの小噺 ―

松浦弥太郎の本とペース走の話。

僕の"バイブル"は松浦弥太郎さんの本たちだ。つまり、事あるごとにに何度も再読して、その度に打開策や気持ちの切り替えのきっかけを見つける手助けをしてもらった。僕はミステリー小説を読むことが多いからだと思うのだが、本はあまり再読しない。1度読んでしまったミステリー小説は、タネが明かされた手品のようなもので、2度目以降はどうしてもワクワクや驚きが失われてしまう。もちろん中々読もうと言う気にならないからだ。中には再読したいミステリーもあるんだけど、今のところ少数派。

しかし「じゃ自己啓発本だったら再読しているの?」と聞かれたら、これまた再読していない。自己啓発本こそ、何度も読んで自分の血肉にしないと意味がないのに。それはわかっているんだけど、新しい別の本を読みたいって言う気持ちに負けてしまう。まぁ、必要であればまた同じような本を読むでしょ。そうやって自分に言い訳して。

僕の自己啓発本の読み方は、4サイクル方式のレーザープリンターみたいなものだ。使ってますか?4サイクル方式のレーザープリンター。僕は昔、実家で使っていた。「シアン」「マゼンダ」「イエロー」「ブラック」を1色ずつしか印刷できないため、プリンターから紙が一度出てきたと思ったら、再び中へ戻っていく。それを4回繰り返す。あれはダサかった。その後、インクジェットプリンターに買い替えられて、カラー印刷が1度でできるようになった時は結構感動した。でも、インクジェットは液体であるインクを吹き付けるので、しっかりした紙を使わないと印刷後に紙がインクでふやけてしまう。それに対して、レーザーは粉であるトナーを押し付けているからか、ふやけない。仕上がりについてはレーザープリンタの方が好きだった。

まぁ何が言いたいかというと、例えば「アドラー心理学」について身につけようと思って啓発本を読むなら、僕は同じ本を4回繰り返して読むのではなくて、アドラー心理学について書かれた異なる4冊の本を1回ずつ読むタイプだと言うことだ。その方が"仕上がり"が、つまり頭への残り方が良いと思うから。もちろん個人的な好みの問題で、根拠は無い。

だけど、松浦弥太郎さんの本については、読み方が違う。同じ本を何度も繰り返して読む。今回紹介するのは、その松浦弥太郎さんの『伝わるちから』だ。僕にとっては、『ほんとうの味方のつくりかた』『100の基本』『しごとのきほん くらしのきほん100』に続いて、4冊目となる松浦さんの本。

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4冊とも、ざっくり言えば「より良く暮らすために日々心がけるべきこと」を整理した本。エッセイのような、啓発本のような、そんな本である。

松浦さんの本は、敢えて言葉を選ばずに言うならば、当たり前のことしか書いてない。

"聞き上手になる"

"その人を思うこと"

"まず自分を変えること"

"幸運を分かち合う"

"離れる勇気"

こんな感じ。啓発本を何冊か読んだことがある人であれば、どれも目新しさはないと思う。だけど、読むたびに思う。あー自分は当たり前のことが全然できてないな...って。当たり前のことを当たり前のようにやる。これって難しい。

この難しさって何かに似てるなって思ったら、あれだ。ペース走。ペース走とは、マラソンの練習法の一つで、自分で決めた一定のペースで走る練習法。これだけ聞くと簡単のように聞こえるけど、僕みたいなランニング初心者がこれをやろうと思うと結構難しい。まず、道には起伏がある。例えば、1kmあたり5分で走るとペースを決めたとしても、上り坂での5分/kmと下り坂での5分/kmでは負荷が全然違う。それに加えて、走り続けていくにつれて疲労が溜まっていく。自分の中で同じペースで走っているつもりでも、それでは徐々にペースは落ちていく。僕は走る時に、GARMIN社から出ているスポーツウォッチをつけているので、1km走る毎に時計からピッと電子音がなってペースを見ることができるんだけど、そのペースを見て「あ、遅れてる」とか「やば、飛ばし過ぎ」とか、毎キロ調整しなければならない。結果、ペースのグラフが見事に凸凹としています。つい先日やったペース走の僕のスプリット表をお見せしましょう。

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ね?どうやら話を聞くと、プロのランナーさんは、綺麗に1秒のズレもなく走りきるらしい。もう自分のペースが身に染みついているんだろう。

新型コロナ影響でマラソン大会が次々に中止になっているけれど、次回挑戦する時までには5:15/kmのペースを身体に染み込ませたいと思っている。このペースで行けば、フルのタイムは3時間41分。スタート時やエイドでのロスを考慮して、サブ4を狙う予定。秋までに収束してくれるといいけど。

当たり前のことを当たり前に出来るようになるのって、ペース走でペースを身体に染み込ませることに似ている。違うのは、ペース走はペース走の練習をすれば良いけど、当たり前のことってその練習方法が無いということ。そこでおススメするのが、松浦弥太郎さんの本だ。

もう一度言うけど、松浦さんの本は当たり前のことしか書いていない。だからこれを繰り返し読む。すると、読むたびに違う言葉が響くことに気がつく。"あーこれ忘れてた"とか、"あー最近これができてなかったな"って。そうやって、少しずつ体に染み込ませる。これ、当たり前のことを当たり前に出来るようになるためのすごい近道なんじゃ無いかなって思ってます。まだ出来ていない僕が言っても、説得力がないだろうけど。

「でも当たり前のことが書いてある本なんて世の中にたくさんあるのに、なんで松浦さんの本が良いの?」って思って思った方。こればっかりは申し訳ないんだけど、個人の好き嫌いに関わる話だから何とも言いづらい。ただ、僕はどういう訳か、松浦さんの本なら繰り返し読もうと言う気になる。それは優しい文体だからかもしれない。難しい言葉が使われていないからかもしれない。ページの中の文字が少ないからかも。まぁ簡単に言えば、僕は松浦さんの書く文章が好きなんだと思う。日中、仕事で散々活字を読まされた日。家に帰ると、もうピントを調節する毛様体筋がバカになって、目もパサパサ。本なんて読んでられるかって気分の夜。それでも、松浦さんの本は読める。それどころか、活字を読んでいるのに、逆に疲れが抜けていく。肩の力が抜けて、呼吸が体の奥まで深く染み渡り、毛細血管の隅々まで血液が行き渡る様な気分になる(※個人の感想です)。その快感の虜になって以来、松浦さんの本は僕にとっての"バイブル"となった。

この記事で紹介した本

伝わるちから (小学館文庫)

伝わるちから (小学館文庫)