あー再読したい...。そう思わせる小説だった。舞台は〈アカシア商店街〉。地方都市のT市から在来線で30分奥へ行った田舎町にある商店街だ。名物は、創業80年の老舗『梅香堂』のきんつば。本作『花の鎖』は、その商店街を中心にして、三人の主人公「梨花」「美雪」「紗月」の話が別々に進んで行く。
タイトルに"花"と付くだけあって、それぞれの主人公には、思い入れのある花がある。職場結婚したものの子供が出来ずに悩んでいる美雪には、優しい夫との思い出の花である青色の「リンドウ」。公民館で開催される水彩画教室の講師で、登山が趣味である紗月には、高山植物の女王である「コマクサ」。そして、梨花には...。
梨花に関しては少し特殊だ。10月20日。梨花の母親宛に大きな花束が届くのだ。毎年この日に。欠かさず。それは、配送してきた花屋のおじさんが体を横向きにしないと玄関を通れないような立派な花束だった。そして、花束には「Kより」という不思議なカードが添えられていた。
さらに梨花が不思議に思っていたのは、そんな豪華な花束を受け取っても、母親が嬉しい顔一つしないことだ。父親も「そうか、もう一年か。早いな」とのんびりと年間行事のように話す。ということは、父親のプレゼントという訳でもないのだろう。もちろん、母の愛人からの、ということも。そして、どういうわけか母も父もKが誰なのか教えてくれない。絶対知っている様子なのに。梨花がKについて尋ねると、母親は「人じゃないわ。くじびきで当たったのよ。KはくじびきのK。KUJIBIKIのね」なんて明らかな嘘をついた。さらに祖母もその正体を知っているようだった。しかし、やっぱり教えてくれない。
「見ず知らずの他人とも強い絆で結ばれてることがあるの」
梨花だけが知らなかった。でも祖母の言い方からすると、やっぱりKは「人」なのだろう。なぜ教えてくれないんだろう。そして梨花が結局Kの正体を突き止める前に、母親は父親共々事故で、亡くなってしまった。Kって誰なんだ?
梨花と同じように、そういう疑いの目で物語を読み進めていくと、後々かなり困ったことになる。3つの物語の中に、イニシャルがKになる登場人物が、男女問わずわんさか出てくるからだ。
「加代」「季美子」「健太」「浩一」「和弥」「倉田先輩」...
しかし、そうやってKばかりに焦点を当てていると、物語は視界の端のぼやけたところから繋がりを見せていく。思い出してほしい。本書のタイトルは、花の"鎖"だ。
くさり【鎖・ 鏁 ・鏈】
①金属製の輪をつないだひも状のもの。「懐中時計の-」「-につながれた猛獣」
②物と物とを結び付けているもの。きずな。「因果の-」(三省堂 大辞林 第三版)