迎春記

― しがないゲイの小噺 ―

3人というコミュニティ

気付けば、つるむのはいつも「3人組」だった。

小学校時代は、家が近所で毎朝一緒に登校していたKとY。中学時代は、軟式テニス部の練習の初日に硬式ラケットを持ってきたアホなSと、部活のライバルで一緒に副部長をやったA。高校時代は中学時代の練習試合で会ったことのあったHと、知ったかぶりばかりするクラスのいじられキャラのK。大学時代は最初の授業で話しかけてくれた韓国人のPと、その実験のペアのF。

別にその3人で壁を作って孤立していたわけではない(...と思いたい)。麻雀をするときはもう一人誰かを誘ったし、テストの打ち上げや旅行の時なんかはもっと誘った。でも、3人以外の枠は"ゲスト枠"みたいな感じでいつも流動的だった。

なぜだろう?

まずは意思決定がしやすい人数だとは思う。「3」は1より大きい"最小の"奇数だから。例えば休日に遊ぼうということになって、「カラオケ」か「ボーリング」かの2案が出たとする。カラオケ好きな僕は、やっぱりカラオケに行きたい。そんなときは残る2人のうちで、カラオケになびきそうな方を説得すれば良い。そうすれば、2対1になってカラオケに倒しやすい状況を作れる。3人組の場合、そういう"ロビー活動"をするのは1人で済む。これが5人グループだとどうだろう?最低2人を味方に付けないとならない。ロビー活動って2人以上になると途端にめんどくさくなる。こうなったら、僕はもう腹をくくって自分はカラオケ派だと宣言し、後は見守るだけにするしかない。仕方ないけど。

また、3人というのは"役割"が決まりやすい人数でもある。例えば、3人のうち2人が喧嘩したとすれば、残る1人は自動的に「仲裁役」となる。だってその人がやるしかないから。もし5人グループ内の2人の喧嘩だとしたら、仲裁役の候補は3人。誰か間に入ってくれないかな...と目配せをする3人が思い浮かんでくる。そりゃそうだ。仲裁なんて面倒なこと、誰もやりたくない。

などと理由を並べたが、結局、単に僕が友達が2人できれば満足してしまうんだと思う。1人じゃちょっと重い。でも2人いればもう十分。きっと僕の人付き合いのキャパがそれくらいなんだろうな。やっぱり僕にとっては「気の合う3人組」というのがベストだ。

湊かなえ『ユートピア』の三人組

湊かなえの『ユートピア』にも、とある3人組が出てくる。舞台となる人口7,000人の小さな田舎町「鼻崎町」で昔からある仏具店を切り盛りしている「菜々子」。美術大学時代の友人の誘いで鼻崎町に引っ越し、その美しい景色と良質な土に魅了された陶芸家の「すみれ」。夫が鼻崎町にある日本有数の食品加工会社「八海水産」の役員であり、転勤でやって来た「光稀」。

3人の出会いは〈鼻崎ユートピア商店街〉で十数年ぶりに開催されるお祭りの準備に向けた打ち合わせだった。お祭りの発起人は、鼻崎町の素晴らしさを全国に発信したいすみれだ。菜々子と光稀は「今回のお祭りは過去のとは違って、若い人が企画するみたいだから」と、各町内で半ば強引に任命された実行委員。

そんな祭りの準備の中で、菜々子と光稀は、"この人は地元民とどこか違う"と互いに意識するようになった。菜々子も光稀も、田舎の狭いコミュニティにうんざりしている者同士だったから。祭りのあと、すみれがそんな2人を誘って、鼻崎町を積極的に発信して行くための次の企画として、ある福祉活動団体を立ち上げる。

「クララの翼」

活動内容は、陶芸家のすみれが作った翼型の素焼きストラップを販売し、その売り上げを車椅子で生活する人たちを支援する団体に寄付するというものだ。

車いす利用者に快適な町づくりを。

すべての人に社会へ飛びたてる大きな翼を。

それが理念だった。

出だしは良かった。全国から反響があり、ストラップの売り上げも入った。しかし、ある時から「クララの翼」に関する"ある噂"が鼻崎町の中でささやかれるようになる。さらに時を同じくして、鼻崎町で昔起こった"ある殺人事件"の噂もぶり返し始めた。どちらの噂も出所はわからない。でも住人の間で噂の辻褄が合い、確信へと変わってしまうと、それを後から覆すことは難しい。噂が広まっていくのに伴って、3人それぞれが噂の影響を受けないようにと、互いの、ひいては「クララの翼」の活動との関わり方を見直し始める。

"これはどちらに付くべきだろう?"

"「クララの翼」の活動からは距離を取るべきだろうか?"

3人の駆け引きが始まる。そして、思惑のズレからすきま風が入り込み、噂の"真実"を巻き込んで、やがて大きな嵐となっていく。そんなお話です。

とにかく3人の心理描写がすごい。「あー菜々子がこう言ったとき、光稀はこういう風に受け取ったんだ」と3人の頭の中を眺められるのが、こちらとしては楽しい。僕はこの本の読者側の人間で良かったと思った。...読書してるんだから当たり前なんだけど。でも、登場人物をこんなに立体的に描けるなんて、やっぱりプロの作家さんってすごい。最後の1ページまで明かされる真実に目が離せない、とても面白い本でした。

この記事で紹介した本

ユートピア (集英社文庫)

ユートピア (集英社文庫)

  • 作者:湊 かなえ
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: 文庫