迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

『絶唱』の感想と小噺【湊かなえ】

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「トンガ」ってどこかわかりますか?

  

んー。確か南方の島...

 

去年ラグビーW杯で日本と当たったところだっけ?...それは「サモア」か。

 

京都議定書を採択した時に注目された、平均海抜2メートルの国?...えーっと、それは「ツバル」で。

 

2年前くらいに日本からの直行便が就航したのは......「フィジー」。

 

中学で地図帳が配られた時に"エロマンガ島"があるって話題になったところ?...それは「バヌアツ」だったな。

 

多分その辺だろうと思うんだけど。どこだっけ?トンガ。

 

 

といった具合で、トンガの場所、というか南太平洋の島嶼国の位置関係がいまいちわからなかった僕は絵に描いてみた。まぁ最近買ったApple pencilを使ってみたかっただけなんだけど。

 

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ニュージーランドの北北東。ほぼ日付変更線の西隣にトンガはあった。

 

キャッチコピーは"世界で一番早く日の出を迎える場所"。

 

高校時代に「地理」を選択していた僕は、よく日本との時差を求める問題を解かされていたけれど、世界的には"極東"と呼ばれる日本よりも時間が進んでいる国なんて、ほとんど出題されなかった。ニュージーランドくらい。

 

でもトンガはそのニュージーランドと同じく、日本より時間が4時間も進んでいる。

 

もし、時差問題にニュージーランドではなくて、トンガが出題されたら結構難問だと思う。あの辺、日付変更線がクネクネしているから。この国は線跨いでるっけ?どうだっけ?ってなる。

 

トンガの東隣の国の「ニウエ」は日付変更線を跨いでいるので、トンガと時計の針は同じなのに日付が1日戻る。

 

トンガ-ニウエの距離は東京-青森の距離くらいらしいから、日曜の夜に東京では明日からの仕事を憂いている頃、青森では「明日は休みだ!今日は飲み明かすぜ!」と騒いでいるようなものだろう。ややこしい。

 

 

そんなトンガですが、ラグビーでは日本と馴染みが深いですよね。

 

去年のラグビーW杯の日本代表には、トンガ出身の「アマナキ・レレィ・マフィ」選手がいましたし。

 

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引用:https://sunwolves.or.jp/team/player/2019/125/

股間を鷲掴みにする禁断のタックルにも怯まないこの表情(たまらん)。そして逞しい太腿(たまらん)。

 

僕と同い年だし(マジかよ)、誕生日もめっちゃ近い。ちょっと親近感わいた。

 

湊かなえの小説『絶唱』の舞台は、このトンガだ。

 

湊さんの経歴をちょっと調べてみると、青年海外協力隊としてトンガで家庭科の先生をしていたことがあるらしい。作家さんの経歴としては面白いと思った。

 

 

また、『絶唱』の話をする上で、もう一つ"鍵"となるものがある。

 

 

ところで皆さん。「計画」って立てたことありますか?

 

ほとんどの皆さんがあるでしょう。

 

仕事は"段取り8割"なんて言われている(本当かどうか知らないけど)。作業に取り掛かる前に細かい計画を立てさせられ、計画から遅れが出ると何日単位の作業遅れなのかを、現場を知らない偉い人に報告しなければならない。

 

プライベートだって、見たい映画があれば上映時間を調べて、そこから昼ご飯(あるいは晩ご飯)は何時にしよう、じゃ待ち合わせは何時にしようと事前に計画を立てる。

 

学生だって、長期休みの前に出される大量の宿題を自分の遊びの予定に当てはめて計画を立てるだろう(僕は立てていなかったけど)。

 

でも大概、計画はその通りにはいかない。

 

そりゃもう、立てるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい上手くいかない。

 

某韓国映画では、必ず計画通りに行く作戦として「計画を立てない」という方法を取った。計画は立てるから上手くいかないのだという理由で。

 

まさにその通り。

 

計画を立てると、それを邪魔する様々な要因が立ちふさがるようになる。

 

仕事は必ずと言っていいほど割り込み作業が入るし、プライベートでも人身事故で電車が遅れれば映画の時間に間に合わないし、学生だって長期休み中の誘惑に打ち勝てる保証はない。

 

...でも。

 

そんな要因、正直かわいいものだと思う。

 

"震災"に比べたら。

 

 

1995年1月17日。午前5時46分。

 

兵庫県の淡路島北部沖の明石海峡を震源として、M7.3の大地震が発生した。

 

その地震動には、建造物への被害が大きいとされる短周期の「キラーパルス」が多く含まれていて、木造住宅は1階部分を地面の中へ押し込むようにして倒壊し、柱の上を走る高速道路はその柱を地面からもぎ取られて横倒しになった。

 

そして、多くの人が計画を立てることさえできなくなり、残された人の計画は修正がきかないほどに大きく狂わされた。

 

「阪神・淡路大震災」。

 

それが『絶唱』におけるもう一つの鍵である。

 

本作に出てくる主人公たちは、この震災で双子の妹・毬絵を亡くした「雪絵」をはじめ、震災でその人生が大きく変わってしまった4人の女性たちなのだから。

 

 

ところが人生というのは面白い。

 

どんな激動があったとしても生きている限りは先に続いていく。

 

すると、本来は交わることのなかったところに新たな交点が生まれる。

 

震災で大きく変わってしまった4人の物語線は、日本の奄美大島ほどの「トンガ」という南の小さい島国で交わった。そこはキャプテン・クックが"フレンドリー・アイランド"と名付けるほど、おおらかさに溢れる人々が住む国だった。

 

そんな気候も人柄も暖かい南国へ、4人はそれぞれの"精算"のために訪れる。そして、それぞれの物語が交じり合う中で、次の物語の最初の1歩を踏み出すきっかけを見つけていく。

 

本作はそんな話。

 

デビュー作の『告白』が大ヒットして"イヤミス(*)"の女王と呼ばれている湊かなえだけれど、本作はゾクッとする読後感ではなく、不幸に見舞われつつもどこか温かな気分に包まれるような物語だと思う。

(*)読んだ後に「嫌な気分」になるミステリー小説のこと。

 

 

本作において、4人の物語がご都合主義を感じさせることなく、自然と交じり合うことができたのは、トンガにおける日本人コミュニティの"狭さ"があったからだと思う。

 

トンガに住む日本人は100人にも満たない。そこへ観光目的の滞在者が加わるとしても、日本で南太平洋島嶼国のビーチリゾートと言えばフィジーやタヒチ島の方がメジャーだろう。その観光客数などたかが知れている。

 

このコミュニティの狭さ。

 

そこにある種の"既視感"のようなものを覚えたのは、僕がゲイだからかもしれない。

 

 

「ゲイの世界は狭い」

 

これは「自分のタイプからはモテない」と並んで、ゲイあるあるの1つだと思う。

 

友達同士が元から繋がっていたり、下手したら昔付き合ってた元恋人同士とか、セックスしたことある同士だったなんて話、これまで腐るほど聞いた。

 

特に新宿の街はひどい。自分の思いを寄せる人が別の男といちゃついているところを目撃して傷心したなんてこと、何度あっただろうか。

 

 

トンガで日本人コミュニティの狭さを目の当たりにした雪絵はこう言った。

 

トンガじゃ、悪いことできないな。

 

僕も昔、同じようなことを思ったなあ。

 

新宿じゃ、悪いことはできない、って。

 

この記事で紹介した本

絶唱 (新潮文庫)

絶唱 (新潮文庫)