こんばんは、しゅんです。『2週間の恋』ついに本日最終回を迎えます。いやぁ感慨深い。
今回は話が全部揃ったので目次もつけておきます。小説っぽくなるように(1)の前置きを「はじめに」にタイトル変更してます(内容は変えていないです。でも読み返してみると、(1)だけおふざけが過ぎましたね笑)。
目次
はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記
第1章 邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記
第2章 予感:2週間の恋 (2) - 迎春記
第3章 再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記
第4章 審議:2週間の恋 (4) - 迎春記
第5章 交流:2週間の恋 (5) - 迎春記
第6章 謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記
第7章 切札:2週間の恋 (7) - 迎春記
第8章 変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記
第9章 勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記
第10章 暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記
第11章 変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記
最終章 帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
今回のお話
最終章 帰結
◎Day 14 (the final day)
最後の日。雅人は僕の家の近くまで来てくれるとのことでした。
待ち合わせ場所は、僕の最寄駅から数駅離れた海辺の大きな駅。その駅の海岸側なら一通りの商業施設が揃っているし、歩いているだけで気持ちの良い大きな海浜公園もありました。
ここならやることが無くて困ることはないだろう。
そんな気持ちから僕が指定しました。まぁ、結局この日どうやって過ごそうなんて、考える必要がなかったんですけどね。
■
僕は待ち合わせ場所に着くと、今日は気まずい1日になるだろうと身構えていました。数日前にあんな口論(と言っても僕が喚いただけ)をして、今まで通り楽しくお喋りできるとは思えませんでした。
せめて晩御飯だけにしておけば良かったかな...
1日空いているからと言って、待ち合わせの時間を昼過ぎにしてしまったことを今更ながら少し後悔していました。
まぁ話が終わったら、そこでさっさと解散すれば良いだけだ。俺が気まずい思いをして休日を無駄にする必要はない。悪いのは告白を反故にした雅人だ。自分勝手な雅人に言いたいことを言って、さっさと解散しよう。
そう自分に言い聞かせました。
■
待ち合わせの時間になると、雅人は駅の出口とは反対のバスターミナル側からやって来ました。
「しゅん!お待たせ!」
背後からの元気な声に振り向くと、僕は驚きました。
雅人が口論後は思えないほどハツラツに声を掛けてきたからではありません。
雅人の髪型が大きく変わっていたからです。
「え。髪型...」
雅人はかつてはなびくに足る長さだった髪をバッサリと切って、短髪系になっていました。まるで僕が画像を送った石田卓也のようでした。
「似合ってるかなぁ」
と恥ずかしそうに頭をかく雅人に、思わず「格好いい」と素直な感想を漏らしてしまった僕は、何だかばつが悪い思いがしました。
■
この日の過ごし方を考える必要がなかったと言ったのは、雅人が車で来ていたからです。
「今日はしゅんとドライブしようかなって思って」
雅人はそう言うと、僕の反応も待たずに運転席に乗りこみました。
僕も慌てて助手席に。
もうすっかり雅人のペースでした。
雅人は僕に何を聞くこともなく、カーナビに目的地を入力すると、車を発進させました。どうやら僕らは「お台場」に向かうようです。
■
車でレインボーブリッジを通るのは初めてのことでした。
それまで画像でしか知らなかったレインボーブリッジに対しては、東京湾にかかる開放的な橋という印象をもっていましたが、一般道を通ると意外とそうでもないということをこの時知りました。
湾岸にある芝浦の街をゆっくりとなめ回すような長い右カーブが続いたかと思うと、一瞬だけその特徴的な橋梁が見え、すぐに頭上には首都高、右方にはゆりかもめの線路が並走し始めました。ほとんどトンネルの中のような道だったと思います。
しかし、そのトンネルもしばらく行くと、徐々に視界が開けてきました。
その日の午後は雲一つない快晴だったため、徐々にまばらになる橋の柱の隙間からは眩しい光が差し込み、その光の中からお台場の街並みが見えてきました。
僕は今日が雅人との"最後の日"だというのに、レインボーブリッジを渡っている時、何だか少しワクワクしていたのを覚えています。
車内の雅人も、先日の口論がまるでなかったかのように明るく元気でした。話題もあの日の以前のように、他愛もない学校の話やサークルの話。それは自分からよく話すいつもの雅人でした。
僕の方も、気が付けばあの日以前のような相槌を打ちながら話を聞いていました。
■
お台場に着くと、ショッピングモールで昼ご飯と買い物をしました。
その後はテイクアウトしたコーヒーを持って海沿いを散歩し、夕方にはお台場海浜公園から夕陽が沈むのを見て、日が沈んだ後は大江戸温泉物語へ温泉に入りに行きました。
それはまるで"デート"でした。
あの日の口論はこのまま無かったことにしてしまおうか...
少しだけそんな気持ちにもなりました。
■
でも、やっぱりそれはできませんでした。
会話をリードしたり、デートを引っ張ってくれる雅人を見ていて、僕の中に湧き上がって来たのは「申し訳なさ」だったからです。
雅人が今日という1日をどんなに楽しませてくれようと、僕はその気持ちには答えてあげられそうにありませんでした。
僕の歯車の歯はやはり折れてしまっていたのです。どんなに軸が回転しようと、歯と歯がかみ合わなければ動力にはなりません。
僕の心は明らかでした。それはもう数学の回答くらい明瞭なものだったと思います。
どんな解法で解こうとも、僕はどうしても1つの答えに行き着いてしまうのです。
雅人とはやっていけない。
それが申し訳なくて。
■
お風呂から上がって、そこで晩御飯を済ませると、僕らは大江戸温泉物語の施設を出ました。
その頃には、外は真っ暗になっていました。
車の助手席に乗り、そろそろ帰ろうかと言おうとしたとき、雅人が言いました。
「この後ちょっと行きたいところがあるんだ」
■
雅人はその日待ち合わせた海辺の駅まで、来た道を戻って行きました。
そして、待ち合わせ場所の隣を走る道を進んで駅の高架をくぐると、海岸とは反対側の山の方へ向かって車を進めました。
片側2車線の繁華街を抜け、左右から車線が1本ずつ減り、やがて住宅街に入ると単車線になりました。車は薄暗い住宅街をさらに進み、その奥にある急な坂道を上っていきます。
さすがに不安になった僕が、どこに行くのかと尋ねようとしたところで車が止まりました。
「着いた」
そこは広い駐車場でした。
駐車場は真っ暗で、唯一隅に置かれた自動販売機だけが眩しい光を放っていました。
雅人はそこでホットの缶コーヒーを2本買うと、自販機の脇から高台へと伸びる階段をスタスタと上っていきました。
■
その丸太を並べただけのような階段を上り切ると、頂上は小さな広場になっていました。奥にはベンチが1つ置かれています。先客はいません。
僕の5歩ほど前を行く雅人が、ベンチに座ったところで声を上げました。
「おーすげぇー!」
雅人の隣に座ると、僕も思わず同じ声を上げてしまいました。
ベンチの前には、僕が住む街の夜景が一面に広がっていたからです。
僕の家の近くにこんな場所があったのか。
■
雅人が缶コーヒーを渡してくれました。
手から缶コーヒーの暖かさが伝わってくると、ふっと肩の力が抜けました。
すると急に鼻の奥がツンとして、何かが込み上げてくるのを感じました。
夜景への感動ではありません。
改めて「申し訳なさ」が込み上がってきたのです。
俺はこんなきれいな夜景を、雅人と一緒に見る資格なんてない。
そう思ったから。
■
僕は込み上げるものを必死に堪えました。
行き場を失った「申し訳なさ」は僕の心を責め始めました。
自分勝手なのは俺の方じゃないか...
勝手に好きになって、勝手に短期戦を仕掛け、たった1回告白を無かったことにされたからと言ってヒステリックに喚き散らかして。
そんな自分勝手な俺に、雅人はこんなきれいな夜景を見せてくれている。
この場所は...いや今日1日のデートは、きっと雅人が色々調べて、そして計画してくれたんだろう。
こんな俺のために。
俺にはそんな資格なんてないのに。
「申し訳なさ」を堪えきった心の中には、僕が最後に雅人に言うべき言葉が残りました。
ごめん雅人...
ふと隣を伺った雅人の横顔には、穏やかな笑みが浮かんでいるように見えました。
■
最初の歓声以外、ほとんど会話をしなかった僕らは、缶コーヒーを飲み終わると黙って高台を下りました。
車に乗ると雅人が「帰るか」と独り言のように呟き、その後の帰り道はこれまでずっと話していた雅人が一言も話さなくなりました。
静かな車内にはback numberの曲が聞こえてきました。最初に行ったカラオケで雅人が歌ってくれた『花束』が。
すると雅人がポツリと言ったのです。
「やっぱり、しゅんはもう俺と付き合う気はないみたいだね」
なんでそう思うの?と尋ねた僕に、雅人はこう答えました。
「だってしゅん。今日一日全然楽しそうじゃなかったから」
そうつぶやいた雅人は、まるで『花束』の歌に出てくる女の子のようでした。
"最後は私がフラれると思うな"
初めて雅人が歌うこの曲をを聞いた時は、男に雅人を、女に自分を当てはめていたのに、今は何故だか逆でした。
"とりあえずは一緒にいてみようよ"
でも僕は、歌に出てくる男が言うはずのその台詞を、どうしても言うことはできませんでした。
「ごめん」
ついにそれを口に出して言った僕に、雅人はもう何も言いませんでした。
■
車が今日待ち合わせた駅まで戻ってきました。
これでお別れなのでしょう。きっと雅人と会うことはもう二度と無い。
「じゃまたね!...って、または無いのか」
そのおどけた台詞とは反対に、運転席に座る雅人は今にも消えそうな弱々しい笑顔を浮かべていました。
...あれ。
雅人のその顔を見た瞬間、約ひと月前に僕のイケメンレーダーが初めて雅人を捉えた場面のことが、なぜだか頭の中で再現されました。
そして、それと同時にある気持ちが湧き上がってきました。
守ってあげたい。
僕は動揺しました。
雅人が最後に見せた、その不安そうな顔を見て、僕の中にはそんな気持ちが湧き上がってきてしまったのです。
1か月前のあの日。パーティで僕のレーダーが雅人を捉えたのは、自分の中のこの気持ちだったのかも知れない。
真っ白で風が吹けばフワッと消えてしまいそうな雅人の雰囲気が、僕の心をグッと掴んだのかも知れない。
僕自身さえ気が付いていなかった僕の中の「庇護欲」を。
僕の決意が少しぐらつきました。
雅人をずっと守ってあげたい。
そんな気持ちが、最後に車から下りるのを躊躇わせていました。
しかし、不意に鳴らされた後ろの車からのクラクションで現実に戻されると、僕の口からは何も気持ちのこもっていない「じゃあ」という言葉が押し出されました。
車を下りる僕。
そして、もう一度振り返りたくなるのを必死に堪えて改札口へと向かいました。
■
「しゅん!ちょっと待って!」
改札を入ろうとしたところで、雅人の声が僕を呼び止めました。
振り向くと、そこには少し息を切らした雅人が立っています。
何かを持って。
思わず息が詰まる僕。
ゆっくりと近づいてくる雅人。
「本当は良い感じになったら渡すつもりだったんだけど、これ持って帰ってくれない?」
そう言って手に持っていた紙袋を差し出してきました。
雅人は二人の仲が修復できた場合を考えて、再スタートを祝うプレゼントまで用意していたのか。
「自分で持って帰りたくないからさ!はいっ!」
ためらう僕に半ば強引にそう渡すと、雅人は「じゃ今度こそ!じゃあね!」と帰っていきました。
■
改札に入ると、僕は雅人から受け取った紙袋の中を覗いてみました。
中には青色のリボンがかけられた白い小さな箱と二つ折りにされたメモが入っていました。
立ち止まってメモを取り出す僕。
そこにはあまり上手いとは言えない字でこう書かれていました。
大好きなしゅんへ
ハッピーバレンタイン!
改めてこれからもよろしくね!
雅人より
...あ。そういえば。
僕はポケットから携帯を取り出しました。
『2015年 2月14日 土曜日』
ホーム画面のその表示を見て、思わず改札口を振り返ったとき、遠くで雅人の車が走り去っていくのが見えました。
エピローグ
◎4 years later
「きよと!そっちじゃない!」
数十メートル先を行く清人が分岐を直進するのを見て、僕は慌てて叫んだ。
■
清人は僕が唯一呼び捨てにする年上。
つまりは僕の今の恋人である。
■
2019年の夏。僕は清人と登山に来ていた。
土日を使って、岩手県の百名山である『岩手山』と『八幡平』の2座を縦走するという弾丸登山旅行。金曜の夜行バスを使って、今朝5時半に盛岡駅に到着し、駅からタクシーを使ってアクセスできる馬返し登山口から岩手山に入った。
今日の天気は快晴。
その絶好な登山日和の程度は、盛岡から国道4号線で青森方面へ北上しているとき、タクシーのドライバーが「今日は良い天気で良かったですね」と声をかけてくれるほどだった。
タクシーから外を見ると、頭上には雲一つない青空が広がっていて、右手には岩手山が頂上まではっきりと見えた。平らな頂上から長い裾野が伸びる雄大な姿に、自分の住む街から富士山が見えた時と同じような感動を覚えた。
予報では曇りのはずだったのに。
"月に35日雨が降る"と言われる屋久島への旅行ですら快晴にしてしまった、清人の「晴れ男パワー」は今日も健在だった。
■
馬返し登山口を6時半に出発し、昼前には岩手山頂の火口周囲を歩いて回る「お鉢巡り」を終えた。予想通りの絶景だった。
その後、鬼ヶ城、黒倉山を超えて、今は「姥倉山分岐」に差し掛かったところ。
予定よりかなり早いペースだ。太腿の筋肉が悲鳴を上げている。
相変わらず清人の登るペースはとんでもなく速い。
■
学生時代はずっと水泳をやっていたらしい。かなり本格的に。
出会って間もない頃、清人の実力が国体の強化選手に選ばれるレベルだなんて知らなかった僕は、清人が水泳大会に出る度に当たり前のようにもらってくるメダルを参加賞か何かだと思っていた。
そのメダルが大会出場者の上位3人しかもらえない貴重なものであるとわかると同時に、いつも見ていた清人の逞しい胸筋は、自分が頑張って付けようとしている"観賞用"の筋肉ではなくて、"競技用"の筋肉だということを知った。
そんな清人がザックを背負うには、アジャスターでチェストベルトを最大長に調整しなければならない。そうしないとバックルが止まらないのだ。
あの大きな体で、何故あんな速さで登れるのだろう。
清人の体力は、1年近く付き合っている今でもその限界を計り知れなかった。
■
ただ難点であるのが、登山の時にルートを全く頭に入れてこないことと、それなのに僕よりも先を進んで行くということである。
僕の声に足を止めた清人が小走りで戻ってきた。
「ごめんごめん」
「今日は三ツ石避難小屋で泊まるんだから、この分岐は犬倉山の方に一度下るの」
「あれ、そうだっけ?」
「LINEのノートにコース書いておいたじゃん」
「ごめん、読んでなかった...」
「登山なんだからコースくらい頭に入れておいてよ。それが嫌なら、せめて分岐では立ち止まって。歩くの速いんだから」
「了解!」
熊も驚いて逃げていきそうな大きな声で返事をすると、清人は僕の1.5倍はあるであろうその歩幅で再び前を歩きだした。
その大きな背中を見ながら、僕は何故だか満足感を感じている自分に気が付く。
■
僕が恋人探しをする際、「年上」であることの他に「自分が何かしてあげられるような"隙"がある人」という好みが追加されたのは、雅人との恋で自分の中の庇護欲に気が付いたからかもしれない。
"登山の時にルートと分岐を頭に入れておく"
それが僕の清人にしてあげられることだ。
どうも清人は山の中を自分の方向感覚だけで歩こうとする。
確かに清人には抜群の方向感覚があった。知らない街でも地図を一度さらっと見れば、簡単に目的地にたどり着いた。
だが、それをやって良いのは街中だけだ。山を感覚だけを頼りに歩くなんて自殺行為に等しい。
だから登山に行くときは、事前に僕が細かい山行計画を立てて、予めLINEのノートに書いておく。今日の様子を見ると清人はそのノートを全く読んでいなさそうだったけれど、僕自身そうやって計画を立てるのが好きな気質なのだから別に構わない。
それよりも恋人のために自分が何かしてあげられるというのが、庇護欲のある僕にとって大事なことなのだ。
まぁ、僕が清人にしてあげられるのは山での道案内くらいだけど。
■
ふと見ると、姥倉山への分岐にある看板の前で清人が立ち止まっている。
「これって何て読むの?"おいくらやま"?」
...そうだった。
僕にはもう一つ役目があった。
それは漢字を読んであげることだ。
学生時代は水泳に明け暮れ、その後は日本語よりも英語を使うことが多い会社に入った清人は、漢字を読むのが一般的な人よりも苦手のようだった。
「これは"うばくらやま"って読むんだよ」
まぁ山の名称に使われている漢字は、一般的にも難読漢字かもしれないけれど。
■
ゲイデビューから今年で7年が経った。
いつの間にか僕は、全てを手に入れたような人には恋をしなくなっていた。
かつては、ステータスのレーダーチャートがあったら大きな円に近い形になるような完璧な人ばかりを追いかけていたのに。
でも、その恋のどれもが「この人に僕がしてあげられることは何もない」と、相手の中に自分の居場所が見つけられずに散った。
恋人にするなら、レーダーチャートが凸凹になるような人が良い。
まるで"歯車"みたいに。
■
清人の歯車の谷に当たるのが、登山における道案内と漢字の読み方だ。たまたまそれは両方とも僕の歯車の山だった。
僕らの歯車はそうやって凸凹が噛み合っている。
道案内と漢字だなんて、そんな誰でもすぐ埋められるような簡単な谷を、清人がそのまま放置しているのは、きっと「ここはしゅんがカバーしてくれる」と信頼してくれているからだと思う。
そうやって信頼を寄せてくれていることが、僕は嬉しい。
それがたとえどんな些細なことであっても。
これからもそうやって、2人だけの"信頼の歯車"を作っていけたら良い。
■
犬倉山を越えたのは、午後は1時半を回った頃だった。
もうすぐ1日目の行動は終了だ。
相変わらず清人は僕の数十メートル先を進む。
そんな清人の前方に、今日の最後の分岐である「犬倉山分岐」が見えてきた。
今日はその分岐を右折して三ツ石避難小屋で1泊し、明日、裏岩手縦走路を通って「八幡平」まで向かう。犬倉山分岐を左折してしまうと、網張温泉へ下りてしまう。
さぁどうする。清人。
何も言わずに見守っていると、分岐に突き当たった清人が立ち止まり、こちらを振り返った。
どうやら分岐で止まることは覚えてくれたらしい。
「しゅーん!ここ右折で合ってるー?」
少し不安そうな清人の表情が、一瞬だけ雅人と重なった。
思わずニヤけてしまう。
「せ、い、かーい!」
僕は大きな声でそう叫ぶと、清人の元へ駆け出した。
(完)
★前回のお話:
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました!^^
まさかこんな大作になるとは思ってもいませんでした。笑
ちなみに僕の仲の良い友人たちや恋人たちを全員登場させてます(今の恋人さんの登場のさせ方は強引でしたかね^^;)。もちろん、ショウ君以外はみんな仮名ですよ。
本作は1話約4,000字で、最終回は約6,000字になったので、全体で約50,000字です。原稿用紙にして125枚。書き味を短編小説風にするだけにしようと思っていたのに、気が付いたら物量としても短編小説くらいになっていました。
この1か月。ジムに行くはずだった時間、読書の時間、その他すべての隙間時間をこの小説執筆に充てました。
いやぁ。頑張った。
1か月の隙間時間を集中させると、短編小説が1本書ける。
これは僕にとって良い勉強になりました。
まだ2月ですが、たぶん2020年で一番達成感のある出来事になると思います。ほぼ間違いなく。
■
それにしても記憶って意外と掘り起こせるものですね。
書き出した頃は記憶が曖昧だったので、この小説はフィクションだと強調してましたが、書いているうちに忘れていた色々なことを思い出して、結構ノンフィクションに近いものになったんじゃないかなって思います。どれくらいって聞かれると困っちゃうんですけど。
でも、今回の執筆を通して、記憶って「上書き」されるんじゃなくて、「上塗り」されていくものなのかなと感じました。
忘れてしまったと思っていた過去のことも、決して消去されたのではなくて、実は今の記憶の下に残っていて、少し突いて掘り起こそうとすれば、意外と掘り起こせるものなんだなって。
だから、今恋人がいる方へアドバイスです。
もし、今後2人の大切な思い出を忘れてしまって、恋人から非難された際は、こうやって反論したら良いんじゃないでしょうか。
「忘れたんじゃなくて、取り出すのに時間がかかってるだけだ」って。
ちょっとカッコよくないですか?笑
まぁ、それで相手が納得するかは保証しませんけどね。
■
最後に。
この小説を書き上げるまで応援してくださった多くの方々に感謝を申し上げます。
まずは、執筆のきっかけをくださった七崎良輔さん。
「2週間の恋の話を聞きたい」というリプライをしただけなのに、原稿用紙125枚相当のリプライをされたもんだから、きっとドン引きしていることでしょう。でも僕が好きでやったことですので気になさらず。笑 この小説が生まれるきっかけをくださったこと、本当に感謝しています。
次に、Twitterのリプライで感想をくださった方。
とても嬉しかったです。毎回楽しみにしてくださるのがわかって、執筆を続ける上で本当に励みになりました。また、自分のブログを読んでくれている人がいるんだと実感したおかげで、何だか自信も付きましたし、これからもブログ続けていこうと思うようになりました。
そしてもちろん。Twitterにいいねをしてくれた方、はてなブログでスターをくれた方、そしてブログに訪問してくれた全ての皆様。
飽き性の僕が久しぶりに大きな仕事をやりきることができたのは、間違いなく皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
また思い立ったら次回作を執筆しようと思っています。
乞うご期待!
2020年2月26日
迎春記 しゅん