迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

2週間の恋 (11)

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こんばんは。しゅんです。『2週間の恋』の第11話になります。

 

目次

はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記

第1章  邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記

第2章  予感:2週間の恋 (2) - 迎春記

第3章  再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記

第4章  審議:2週間の恋 (4) - 迎春記

第5章  交流:2週間の恋 (5) - 迎春記

第6章  謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記

第7章  切札:2週間の恋 (7) - 迎春記

第8章  変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記

第9章  勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記

第10章  暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記

第11章  変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記

最終章  帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

今回のお話

第11章  変化(2)

 

◎Day 2

 

前日の雅人の怒りに関しては、その後いくら内省しても納得感を得ることはできませんでした。

 

しかし、たかだかLINEと電話に反応出来なかったというだけのことです。僕の中であまり深刻なものにはしたくありませんでした。だって、そんなこと今後いくらでもあるだろうから。

 

だから気を取り直して、翌週も平日は雅人と電話をしました。幸いなことに、あれだけ怒っていた雅人も1日経つと、いつも通りの雅人に戻っていました。受話器から聞こえる声だけからの判断ですが。

 

 

むしろ変わったのは僕の方でした。

 

ほんの少し前まで、受話器の向こう側に想像するのは、コアラのような耳を持ち、白くて綺麗な口元をしたマシュマロのような雅人だったのに、今は新宿で終電を逃した時に「じゃあ、どうすんの!」と僕に詰め寄ってきた時の顔を想像してしまうのでした。

 

変なことを口走って、また雅人を怒らせたくない...

 

そんな思いから、電話のメインスピーカーは再び雅人に戻っていました。大概の話題は、これまで聞いていたような学校での苦労話です。

 

 

しかし、そんな雅人の話を聞いている時も、僕は自分の変化に気が付いてしましました。

 

雅人の話が"愚痴"にしか聞こえてこないのです。

 

通勤に2時間近くかかる。保護者から理不尽なクレームを受ける。子どもが言うことを聞かない。授業の準備の時間が取れない。

 

2週間前までは、あぁ何て大変な仕事なんだろう、と同情しながら聞いていた話と同じような内容です。

 

でも今は、じゃこうすれば良いじゃないかとか、雅人が選んだことじゃないかとか、つい反論したいような気持ちを抑えている自分がいました。

 

おかしい。何かが。

 

 

その週は電話をするのが辛くなっていきました。辛いというか嫌になっていました。

 

僕の相槌がそっけないものになっていくにつれて電話の時間は短くなり、木曜日には仕事が遅くまでかかりそうと嘘をついて、僕から電話を断りました。

 

◎Day 7

 

僕が感じていた変化は、週末にも感じられました。

 

土曜日はカズの好きなバンドがお台場でフリーライブをやると言うことで、カズ&ヤスカップルと一緒にお台場に遊びに行っていました。ついに実現した最初の、そして最後のダブルデートです。

 

 

その違和感を感じたのは、ライブの後に皆んなで晩ご飯を食べていた時。

 

3人が自分たちの入っているフットサルサークルの話をしていたのですが、そこでカズが雅人のプレーについてこう言ったのです。

 

「雅人はすぐ感情的になってプレーが雑なんだよな」

 

雅人はそんなことないよと否定していましたが、僕はやっぱりそうなのかと思ってしまいました。

 

"やっぱり"...?

 

おかしい。

 

目の前で恋人が非難されたのです。少し前の僕であれば、口には出さなくとも、心の中では反論をしたはずです。カズは雅人のフットサルの実力に嫉妬してそういうことを言っているだけだと。

 

ところが、この時は自分がカズ側に付いていることに気が付きました。

 

やっぱり雅人はすぐに感情的になるような人なのか...

 

 

僕の中で発せられた冷たい炎がメラメラとその勢いを増していくのを感じました。

 

何でだろう?

 

何で僕は変わってしまったんだろう?

 

告白されたのがセックス中だったから?

 

いや。告白なんて重要じゃない。僕とショウ君には告白なんて要らなかったものだ。そんなものが無くても、お互いに思い合う気持ちがあれば恋人としてやっていける。それはショウ君が教えてくれたことじゃないか。お互いに思い合う気持ちさえあれば、告白なんて形だけのもののはず。

 

LINEの返信ができないことくらいで怒られたから?

 

いや。それだって大したことじゃない。もしかしたら、次は雅人の方が返信ができずに謝ってくるかもしれない。その時は優しく、気長に返信を待ってあげよう。そうすれば、雅人もLINEの返信くらいで怒るようなことも無くなるだろう。お互いに思い合う気持ちさえあれば、そんな些細なすれ違いなんて、そうやって歩み寄って埋め合わせできるはず。

 

そう。

 

お互いに思い合う気持ちさえあれば。

 

 

僕は必死で頭の中の記憶を遡らせました。数週間前の、あのマシュマロのような愛おしい雅人を掘り起こしました。

 

そうやって、自分の中の冷たい炎をかき消そうとしたのです。

 

◎Day 9

 

しかし僕のその努力は空しく、その翌々日には冷たい炎が一気に爆発してしまいました。

 

いつも通り、仕事終わりに電話をしていると、雅人がこう言ってきたからです。

 

「ねぇ。この前の告白なんだけどさ、一旦無かったことにしない?」

 

...

 

「は?」

 

 

言っている意味が良くわかりませんでした。

 

...いや。

 

もしそれが言葉通りの意味だとしたら、信じられませんでした。

 

「え、どういうこと?」

「だからさ、あの時はお互い気持ちが興奮してたわけだしさ、長く付き合っていくなら、やっぱ冷静な時に決めるべきことだったなと思って」

「でも終わった後にも『よろしく』って言ってくれたじゃん」

「そうなんだけど...やっぱりセックスの時に告白されたなんて、しゅんも嫌でしょ?」

 

嫌じゃない!!

 

僕は心の中で叫びました。

 

告白なんて形だけのものなんだってば!

 

「雅人は俺と付き合おうとまでは思ってなかったの?それなのに、だだセックスの勢いで言っちゃっただけ?」

「いや、付き合いたいとは思ってるんだけど...」

「じゃ何で?何で告白が無かったことになるわけ?」

「だから、あの時は...」

「勝手すぎない?」

 

◼️

 

「意味わからん!」

 

僕はそう雅人に言い放ちました。

 

僕が初めて雅人に向ける強い言葉でした。

 

そして一旦それが口から出てしまうと、まるでお湯が張られたバスタブの栓が抜けたかのように、僕の口からは次々と怒りの感情が言葉となって出てきました。今は関係ないことまで。

 

「勝手すぎるだろ!いいよ、別に告白のタイミングなんて!俺はお互いの気持ちが確かめられればそれで良い!セックス中の告白だったから嫌なんて、勝手に決めんなよ!」

「...」

「ホント勝手すぎるよ!この前だってそう!何で電話でキレられたか正直意味わからんかった!」

「あれはしゅんがLINEも電話も無視するから...」

「無視じゃないだろ!あの日は飲み会だって言ってあったじゃん!それに何?俺は反応できない時はいちいち連絡しないとダメなの?今から自転車で帰るから返事は20分後くらいになるとか、今からシャワー浴びるから電話出られないとか、今からトイレ入るからLINE返せないとか!!そんなんやってられるか!!!」

 

自分でも驚くくらいの剣幕だったと思います。ちょっとスッキリしたくらい。

 

あの日の電話がどうやって幕切れたのか、今はもうあまり覚えていません。「もう話したくない!連絡も二度としてくんな!!」とは言ったと思います。

 

 

今考えれば、雅人の言い分が正しかったと思います。

 

やっぱりセックス中の告白なんておかしい。

 

それは自分でも感じていたことのはずです。

 

それなのにあんなにヒステリックにまくし立ててしまうなんて。

 

でも、僕はショックだったのです。

 

悔しかったのです。

 

例え告白が微妙なものであっても、告白なんて形だけのものだと信じてこれから二人でやっていこうとした自分と、一度無かったことにと"リセット"しようとした雅人の間には、埋めようのない思いの溝がある気がしたからです。

 

雅人とはやっていけない...

 

僕の中の冷たい炎が頭の中で「言葉」になってしまうと、歯車はついにその歯が折れてしまいました。 

 

◎Day 10

 

その翌日。僕は雅人からきたLINEも電話も全て無視しました。

 

通知を見ると「ごめん」とかそういう内容だったと思います。

 

『2週間の恋』なんて言ってお話ししてきましたが、実質的には2週間ももっていなかった恋だと思います。それよりも早く終わってしまっていたんです。雅人から「告白は一旦無かったことにしないか」と言われたあの日に。

 

◎Day 12

 

雅人からのLINEや電話は次の日も、その次の日も続きました。同じような謝罪の内容です。

 

さすがにこの時には僕も頭の熱が冷えてましたから、謝り続けている雅人を見て何だか申し訳ないような気持ちも湧いてきました。

 

しかし、冷めて消えていったのは頭の熱だけではありませんでした。

 

どんなに謝られても、僕の中に雅人にもう一度会いたいと思う気持ちが起こらなかったのです。

 

引っ張っていく自信はないけれど、雅人となら二人で歩んでいけるという希望が見えなくなってしまったのです。

 

 

それでも「もう一度だけ。それでももう会いたくないと思ったら、それが最後でいいから」という雅人の要望に応じたのは、会ってみればもしかしたら戻るかもしれない、という思いがわずかに残っていたからかもしれません。

 

自分の心があの日の前に戻るんじゃないかって。

 

僕はその週の土曜日にもう一度雅人と会うことになりました。

 

だから、この恋についてはその日までカウントさせて下さい。

 

ちょうど2週間。

 

あの"14日目"まで。

 

(つづく)

 

★次回のお話

2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

★前回のお話:

2週間の恋 (10) - 迎春記

 

連絡事項

いつもお読みいただきありがとうございます。

 

この連載も次回ついに最終回です!笑

 

日曜日が暇なので書いてしまおうかなと思っているのですが、最終回なのでちょっと時間かかるかもしれないです。まぁ気長にお待ちください。

 

それでは、皆さん。良い週末を!^^