迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

2週間の恋 (10)

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こんばんは。しゅんです。『2週間の恋』の更新です。第10話。まさかの2桁に突入しました。多分、一番驚いてるの僕自身かもしれない...。笑

 

 

ちなみにこの『2週間の恋』ですが、この度「12話完結」ということが決まりました!何回か"終わる終わる詐欺"をしてきましたが今回は本当です。今までは好きなことを好きなだけ書いてきましたが、そろそろ終わりを意識して書いていこうと思います。それでは第10話をどうぞ。

 

目次

はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記

第1章  邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記

第2章  予感:2週間の恋 (2) - 迎春記

第3章  再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記

第4章  審議:2週間の恋 (4) - 迎春記

第5章  交流:2週間の恋 (5) - 迎春記

第6章  謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記

第7章  切札:2週間の恋 (7) - 迎春記

第8章  変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記

第9章  勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記

第10章  暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記

第11章  変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記

最終章  帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

今回のお話

第10章  暗転

短期戦。付き合う前のセックス。セックス中の突然の雅人からの告白。

 

正直、自分の物語の展開に自分自身が付いていけていませんでした。

 

マシュマロを口渡ししたときに静かに回りだした僕の"歯車"は、僕の気持ちが十分に暖まって、その歯車自体の"強度"が確かなものとなる前に、速度を上げ過ぎてしまっていたのかもしれません。

 

だとしたら、もう少しブレーキもかけなければいけなかった。

 

歯車は過回転により無理な力がかかると、歯の"歪み"が拡大し、その歪みにより発生する応力が歯車の強度を上回ると、歯車の歯が根本から破断してしまうのです。

 

ですがブレーキの仕方なんて、この時の僕はまだ知りませんでした。

 

僕らの歪みの拡大は、付き合った初日から始まりました。

 

◎Day 1

 

僕と雅人が恋人になった翌日、僕は夕方からゲイ活動における初期の友人たちと横浜で飲み会の約束があったので、午前中のうちに雅人に駅まで送ってもらい帰宅することにしました。

 

帰りの電車の中。僕は付き合うことになった嬉しさよりも、これからの不安の方が遥かに大きいことに気づかされました。

 

今までは「付き合う」という頂上を目指してガムシャラに登れば良かった。多少ルートを外れても目的とするピークはハッキリと見えていましたから、容易に軌道修正してそこへ向かうことができました。

 

ところが、いざ頂上まで来てみると、不思議なことにそこからはどこまでも果てしなく続く大海原が広がっていました。

 

僕はこれからどこへ向かっていけばいいのか、どうやって進めばいいのか全く考えていませんでした。

 

最初のデートは何をしようか...

 

もうそこからでした。

 

雅人と共通の趣味といえばカラオケくらいしか無い。じゃあまずはカラオケかな。

 

でも、じゃその次のデートは?その次の次は?

 

僕は先のことを全く考えていませんでした。

 

 

今まではそれでも大丈夫だったのです。僕がショウ君と付き合っていた時は。

 

だってデートの予定を決めるのはいつもショウ君だったから。

 

「明日天気が良いからお弁当持って御苑に行かない?」

「そろそろ河津桜が満開だから見に行こうよ」

「あそこのスーパー銭湯の岩盤浴が良いらしい」

「三崎マグロが食いたい」

 

デートだけではありません。

 

旅行だって、旅行が好きで「総合旅行業務取扱管理者」の資格まで持ってるショウ君が決めていました。

 

「え!タイまでの航空券がめっちゃ安い!ねぇ。この日休み取れない?」

「今年の夏はしゅんくんを中国の桂林に連れていきたい」

「しゅんくんの誕生日、沖縄旅行にしようと思ってるんだけど良い?」

「グアム行かない?」

 

そんな言葉をかけて、僕を引っ張っていってくれたのはいつも年上のショウ君でした。

 

僕は常に引っ張ってもらっていました。

 

 

新宿に取り残された時、不安そうに僕を見つめていた雅人の様子から、雅人の方もまた引っ張ってもらうタイプだったのしょう。

 

ということは、これからは年上の僕が引っ張っていかなければいけないはずだ。きっと。

 

でもショウ君が僕にしたように、僕が雅人のことを引っ張っていける自信なんて、その頃の僕にはありませんでした。

 

恋愛経験も浅いのでデートのレパートリーもありませんでしたし、もちろん旅行業務の資格なんて(今でも)持ってないですから、その時期にどういうところへ旅行へ行くと安くて楽しめるのか、そういう知識もありませんでした。

 

この先大丈夫かな...

 

僕はその答えを見出せないことに対する恐怖から目を背けるために、今日の飲み会のことを考えることにしました。

 

 

この日の飲み会は僕がゲイデビューしたイベントである「ピアフレンズ」で知り合った仲良しグループでの飲み会です。この時は6人集まりました(その中には僕のクラブ友達のケイジも含まれています)。

 

ゲイデビューを初期は、ほとんどその仲良しグループで遊んでいました。

 

その後だんだん皆がゲイ活動に慣れるにつれて、それぞれに行動するようになって、頻度こそ減りましたが、半年に1回くらいはこの日のように集まっていました。

 

 

ちなみに、ピアフレンズというのはJuerious Partyと同様、出会いを目的としたイベントです。しかし、Juerious Partyよりもっとユース向けの、一人で悩んでいるセクシャルマイノリティの人が"セクマイ活動の最初の一歩を踏み出すきっかけ"になるようなイベントです。

 

だから高校生のような10代から参加することができ(僕は22歳の時に参加しましたがほぼ最年長層でした)、参加者の半数くらいは"今日初めてゲイの人に会う"というような人が集まります。もちろんゲイ以外のセクシャリティの人も。

 

いわばセクマイ活動の"卵"のような子たちが集まるのです。

 

 

だから、このイベントで知り合った仲良しグループがその後も定期的に集ると結構面白いんです。その都度みんなの変貌ぶりがすごくて。

 

この日も本当に話が盛り上がりました。

 

出会った頃は右も左もわからないような"ひよっこゲイ"だったはずなのに、皆もうすっかり立派なゲイになっていました。

 

当たり前のように二丁目のクラブで遊ぶようになった僕とケイジ。

 

アプリで年上の恋人を見つけて仲睦まじい関係を築いているリョウタ。

 

実はいつの間にか付き合っていたグループ内カップルのタクヤとユウト。

 

ゲイとしてデビューしたものの、他のゲイの人と接しているうちに違和感を感じて、改めて自分のセクシャリティに悩み、セクシャリティについて学んでいるノリくん。

 

当初は皆んなで集まっていないと不安だった6人が、今は自分の足でゲイの世界を歩いていました。

 

 

僕は雅人のことも話しました。

 

つい昨日付き合うことになったのだと。

 

あまりに出来立てホヤホヤの話題でしたから、僕の話が一番盛り上がったと思います。

 

えー?!マジで??どうやって知り合ったの?何歳?え、年下?しゅん大丈夫なの?写真見せてよ、写真。え、イケメンじゃん!ってか可愛い!でもしゅんってこういうのタイプだったっけ?意外。で、どこまでやったの?うわ、はっや。えーでも羨ましい!おめでとう!!

 

みんなから質問攻めをされ、そして祝福されました。

 

すると、いつの間にか帰りの電車で感じていた雅人とのこれからの不安は薄まり、純粋に雅人と恋人になったのだということが嬉しくなってきました。

 

そうやって、席の時間だった2時間は、あっという間に過ぎていきました。

 

 

当然話し足りない僕らは2次会をすることになり、適当な居酒屋を探して入りました。

 

お酒も入り、よりエグいゲイトークになってきました。

 

こういう話を外でするのに、昔ほど抵抗感を感じなくなったのは、自分がゲイの世界で仲間を見つけることができたからだと思います。

 

たとえ世間からどんな目で見られようと、僕にはこの友達がいる。

 

そう開き直ることができる、確かな"拠り所"が僕の心にできていたのです。

 

 

そんな心の同志達に囲まれ、楽しい同窓会のような2次会も半ばを過ぎた時のことです。

 

雅人からの、恋人からのLINEの通知が来ました。少しだけ酔いが冷めた気分になりました。

 

「今どんな感じ?」

 

僕は場も盛り上がっていたし、返信は後ですることにしました。

 

すると10分後には着信が。

 

僕はその応答も後回しにしていると、以降数分毎に着信が繰り返されました。

 

それは鬼のように。

 

僕は面倒臭いなぁという苛立ち半分、何か緊急のことかもしれないという心配半分の気持ちになり、お店を出て電話に出ることにしました。

 

「何で電話出てくれないの!!」

 

雅人は烈火の如く怒っていました。

 

「ごめん。今飲み会だから後で折り返そうと思って...」

「じゃあ何でLINEも返してくれないの!」

「ごめんね、ちょっと話が盛り上がっちゃっててさ」

「LINEすら返せないの?『今飲み会だから後で連絡する』くらい返せるじゃん!数秒もあれば」

「ごめん...」

 

その後も雅人の怒りはなかなか収まりませんでした。

 

常に相手との衝突を避けてきた人間は、相手の怒りを鎮める方法の知識が乏しいものです。あまり経験がないですから。

 

僕もまた「ごめん」と謝ることくらいしかその方法を知らず、ひたすら雅人にその言葉を繰り返していました。

 

 

電話をかけてから、どれくらい謝り続けたでしょうか。

 

僕は1年間分ぐらいの「ごめん」を言ったような気がしましたし、電話をもつ右手は冬の夜の寒さに悴んで、ノリくんが電話があまりに長いので心配そうに様子を見にくるぐらいでした。

 

結局僕は、2次会の後半、ほとんど皆と話すことが出来ず、その日はお開きとなりました。

 

 

帰りの電車の中で僕はドッと疲れが出てきました。

 

はぁ...また雅人を怒らせてしまった。

 

何がいけなかったんだろう。どうすれば良かったんだろう。

 

僕は自分の今日の行動を反省しました。"石田卓也事件"の後のように。

 

しかし、反省に反省を重ねていくうち、前回の時には生まれなかった新しい感情が僕の心の中に芽生えました。

 

電話に出られなかったことって、そんなに悪いことなんだろうか?

 

何十分も謝り続けなければいけないようなことなんだろうか?

 

それはまだ小さく、でも冷たい炎でした。

 

僕の心で発せられたその炎は、この後次第に大きくなっていくのです。

 

(つづく)

 

★次回のお話:

2週間の恋 (11) - 迎春記

★前回のお話:

2週間の恋 (9) - 迎春記