迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

2週間の恋 (9)

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こんばんは、しゅんです。『2週間の恋』の第9話です。

 

目次

はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記

第1章  邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記

第2章  予感:2週間の恋 (2) - 迎春記

第3章  再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記

第4章  審議:2週間の恋 (4) - 迎春記

第5章  交流:2週間の恋 (5) - 迎春記

第6章  謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記

第7章  切札:2週間の恋 (7) - 迎春記

第8章  変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記

第9章  勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記

第10章  暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記

第11章  変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記

最終章  帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

今回のお話

第9章  勝敗

 

◎The day

 

雅人の最寄り駅までは、それはそれは長い道のりでした。

 

旅行の時にしか使わないようなターミナル駅へ向かい、そこで初めて乗る路線に乗り換えて、そのあとで名前すら読めないような駅をいくつも超えて行きました。

 

そんなほぼ小旅行のような電車の旅を約2時間。目的地に到着したのは、お昼を過ぎた頃でした。

 

待ち合わせは改札の前。そんなに大きな駅ではありませんでしたから、遠目からでもすぐに雅人を見つけることができました。

 

「お疲れー。いやぁ遠かっ...」

「え?!何その髪型!」

 

え。

 

...あ、そういえば。

 

 

僕は雅人とホテルで一夜を明かした翌日、その時入っていたバレーサークルの先輩の紹介で、ゲイの方が経営しているという床屋に行って髪型を変えていました。

 

僕は剛毛のくせ毛で、髪の毛が伸びてくると伸びるというよりは"膨らむ"タイプの髪質をしています。

 

それなのに結構髪の毛を放置することが多くて、いつもモサッとした髪型をしている僕にサークルの先輩の『シンスケさん』が紹介してくれたのでした。

 

 

シンスケさんに教えてもらった住所へ行くと、そこは美容院のような店舗ではなく、とあるマンションの一室でした。

 

本当にここであってるのかなと心配になりながら扉を開けると、中から"ゲイと言えばこの髪型"というような典型的なソフトモヒカンの方が迎えてくれました。

 

「あーシンちゃんの紹介の子ね。アキラです。どうぞ入って」

 

部屋に入ると、リビングルームにバーバーチェアが1台置かれていました。

 

へぇー。こういうタイプの床屋さんもあるんだ。

 

椅子に座って、少し珍しそうに周りを眺めていると、バリカンを持ったアキラさんがやってきました。

 

...そしてその数十分後。

 

僕はアキラさんと同じ髪型になりました。

 

 

アキラさんとは髪の毛を切る前に、

 

「どんな感じにする?」

「クセ毛で膨らむのが嫌なので短くしたいです」

「刈り上げちゃって大丈夫?」

「はい。大丈夫です。」 

 

というような会話をしたと思います。

 

最初に鏡で仕上がりを見た時はその変貌ぶりに驚きましたが、僕が元々好きだったイカニモ系の方々の典型的な髪型です。

 

僕にとっては、「いつかあの髪型にしたいな」というようなちょっとした憧れに似た思いを持ちながらも、なかなか勇気が出ずにためらっていた髪型でした。だから自分としては満足していたんです。髪を切った後にそのまま向かったサークルでは、みんなからの評判も良かったですし。

 

 

しかし、雅人の反応と言えばひどいものでした。

 

「前の方が良かった」と残念そうに僕のことを見ました。

 

僕は何だか"イエローカード"をもらったような思いがしました。

 

電話での会話では嫌われないように細心の注意を払っていたのに、見た目までは気を使っていなかった...

 

その日までは満足していたはずなのに、その髪型が急に恥ずかしく感じられてきました。

 

僕は自分の意志では無かったことにしようと「サークルの人に紹介されて、初めてゲイの人に切ってもらったらこの髪型にされたのだ」と人のせいにまでしてしまいました。

 

「次はちゃんと美容院で切ってよね」

 

雅人にそう言われたとたん、少し伸びた顎ひげのように刈り上げられた頭にヒューっと冬の冷たい風が抜け、思わずぶるっと身震いをしました。

 

それ以降、僕はアキラさんのお店に行っていません。

 

 

そんなやり取りがあって落ち込みつつ、僕は雅人の後ろを付いて駅を出ました。

 

駅の出口にはコンビニとチェーンの牛丼屋が1件ずつあり、目の前はバスロータリーになっていました。駅前にはカラオケボックスやチェーンの居酒屋などが立ち並ぶ通りがありましたが、その通りも100m行けばすぐに住宅地になっていました。

 

雅人はバスロータリーの一角に停めてある車に向かうと、その扉を開けました。

 

「ちょっと散らかってるけど、そっち側に乗って」

 

あ、車で来てくれているのか。

 

よく考えれば、車が必要な街だということはすぐにわかりました。でも、今までのリアルは近場で都内の人で、こうやって車で迎えに来てもらうということは初めてだったので、とても新鮮に感じられました。

 

運転席の雅人はいつもより大人びて見えました。

 

僕らはその日、雅人が良く行っているという、大型のスーパー銭湯へ行きました。

 

 

僕が2枚目の"イエローカード"をもらってしまったのは、スーパー銭湯の帰りに、中華料理店で晩ご飯を食べている時です。

 

チャーハンを口いっぱいに頬張る僕に、雅人が

「食べ方が汚い!」

と言ってきたのです。

 

とても恥ずかしかった。そんな子供が注意されるようなことを言われるなんて。

 

思い返してみれば、高校時代。学食で僕がカレーうどんを食べた後には、きっとこの後この席には誰も座らないだろうなと自分でも思うくらいに汚れていたのを思い出しました。

 

でも、25年間その食べ方だったのです。突然治るものでもありません。

 

僕はその後も食事中に何回も雅人に注意されてしまいました。

 

 

僕への"イエローカード"はその後も続きました。

 

帰りにお酒とおつまみを買って雅人の家に行ったのですが、雅人が「ちょっと洗濯物を片付ける」というので、洗濯物をピンチハンガーにかけるのを手伝ったら「左右のバランスが悪い」と怒られ、干してあるTシャツを畳むのを手伝ったら「畳み方が違う」と怒られました。

 

もしこれが本当にサッカーだったら、僕は何回退場してるのだろう。

 

ついに何もできなくなった僕はソファーで一人、雅人が洗濯物を片付けるのを座って待つしかありませんでした。

 

 

しかし、そんなイエローカードラッシュも、一緒にお酒を飲みながらテレビを見ている頃にはやっと落ち着いていました。

 

そして、缶チューハイが2、3本空いた頃でしょうか。

 

少し間を空けて隣に座っていた雅人が、スッと僕の方に詰め寄ってきました。

 

僕が雅人の方に顔を向けると、雅人が僕の太ももに手を置いて、そしてキスをしてきました。

 

そのキスは、その日僕がもらった束のようなイエローカードを全て帳消しにしてくれました。

 

「ベッドに行こう」

 

そう言われて、僕は雅人の部屋へ行きました。

 

 

雅人の部屋には物が溢れていました。

 

6畳ほどの部屋には奥の壁に沿ってベッドが置かれていて、その隣のデスクには"指導要項"のような学校関連と思われるような本がたくさん並んでいました。デスクの下にはサッカーボールやら漫画やら。

 

何だか大人と高校生が一緒に住んでいるような部屋でした。

 

そして、置かれているもの全てから雅人の匂いがしました。

 

ふと目に留まったデスクの上の本棚には「雅人先生ありがとう」と書かれた色紙がありました。文字の下にはクラス写真と思われる写真が貼られていて、いつもの柔和な表情の雅人が笑って写っていました。

 

これがホントに怖い先生だと言われているのかねぇ。

 

そう思ってしまうくらい、いつもの可愛らしい笑顔でした。

 

僕はそんな雅人の匂いがする部屋の中で雅人と抱き合いました。

 

それはもう全身を雅人に包まれているような気持ちになり、先週のホテルでの夜とは比べものにならない程の幸福感に包まれました。

 

 

ベッドの軋む音が激しくなってきた頃、僕の上で体を密着させていた雅人が、急に僕の肩に手を付いて顔を上げました。

 

そして僕の顔をじっと見た後で、突然こう言ったのです。

 

「付き合おう」

 

... え?

 

この時はその言葉の意味を頭で理解することができませんでした。僕は乱れる呼吸の勢いで「うん」と頷いて、もう一度雅人を抱きしめました。

 

 

そうしてお互いが果てた後、来たる賢者モードの中で僕は改めて考えました。

 

あれは聞き間違いかもしれない。それか気持ちが高ぶってしまっただけか。

 

でもその言葉の真意を、僕はなかなか尋ねることができずにいました。

 

すると雅人が、

 

「はぁー言っちゃった。これからよろしくね」

 

と言ってきました。

 

どうやら、あれは言葉通りの意味だったらしい。

 

僕は気持ちの整理がつかないまま、「うん。よろしく」とだけ答えました。

 

 

まさか、こんなスッキリしないスタートを切るとは思ってもいませんでした。

 

パーティの2次会での"敗者復活戦"を勝ち上がり、ほとんど上手く運ばなかった短期戦を経て、ついに雅人と付き合うという「勝利」を収めたのです。

 

そりゃもう2007年のM-1グランプリで、敗者復活組からそのまま優勝した「サンドイッチマン」のように、ステージ上で喜びを爆発させ、互いに固く抱き合うようなことになるものだと想像していました。

 

まさかセックスしているときに告白されるなんて...

 

2週間前に僕が電話で「とりあえず付き合おう」と、枝豆とビールを頼むようにしてしまった告白とどっちが嬉しくないものでしょうか。

 

まぁでもそんなことを言っても仕方がありません。あの時とは違って、僕はそれを承諾したのです。

 

あの瞬間、僕らは紛れもなくカップルとなりました。

 

今や雅人は僕の恋人。 

 

気持ちが高まっていたとはいえ、それが言葉に出てくるということは付き合いたいという気持ちが雅人にもあったということだろう。告白が微妙なものだったとしても、きっと雅人はそんなこと気にせず、これから2人でやっていけるはず。

 

そんな僕の期待は半分当たりで、半分外れました。

 

 (つづく)

 

★次回のお話:

2週間の恋 (10) - 迎春記

★前回のお話:

2週間の恋 (8) - 迎春記