迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたに贈るゲイの小噺 ―

2週間の恋 (5)

f:id:heckyeah_dude:20200207112120j:plain

こんにちは。しゅんです。『2週間の恋』第5話です。前置きは無しでさっそく始めます。

  

目次

はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記

第1章  邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記

第2章  予感:2週間の恋 (2) - 迎春記

第3章  再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記

第4章  審議:2週間の恋 (4) - 迎春記

第5章  交流:2週間の恋 (5) - 迎春記

第6章  謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記

第7章  切札:2週間の恋 (7) - 迎春記

第8章  変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記

第9章  勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記

第10章  暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記

第11章  変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記

最終章  帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

 

今回のお話

第5章  交流

 

あの時、なぜ僕は過去の教訓を生かさず、雅人との「短期戦」を選んでしまったのか。

 

認めたくありませんが、まずは「焦り」があったのだと思います。

 

僕から見て、雅人はそれだけ格好良かったのです。他の誰かに渡ってしまったら絶対に嫌だと思うほどに。

 

人生は巡り合わせ。こんな出会い、次はいつ巡ってくるかわかりません。「やらない後悔よりやる後悔」。いつもはプレッシャーにしかならないその言葉が、その時は僕の背中を押すのでした。

 

 

もう一つの理由として、「元彼と別れたばかりだから、恋愛モードになれない」という雅人の言い分にイマイチ納得感がなかった、というのがあったと思います。

 

だってそんなことを言ったら、僕だってショウ君と別れたばかりです。でも僕は雅人を見た瞬間にショウ君のことなんか忘れて、恋愛モードになりました。

 

恋愛ってそういうものではないでしょうか?

 

だとしたら、やっぱり雅人は僕のことをそれほど気になっていないのかもしれない。

 

...いや、そんなことはないはず。

 

電話では"一番"と言ってくれたし、連絡先だって雅人の方から声をかけてくれたのです。気になってくれていることは間違いないでしょう。きっと。

 

じゃ、それ以上に元彼との別れが壮絶で、"一生モノ"の傷を心に負ったということでしょうか?『金色夜叉』の「貫一」みたいに?

 

結婚の約束を破られた貫一こと雅人は、金に目がくらみ富豪の元へ嫁いでしまった「お宮」こと元彼を、熱海の海岸で蹴り飛ばして別れてきたのでしょうか。「1月17日の月は僕の涙で曇らせてやる」とかなんとか言って。

  

 ...いや、それもおかしい。

 

そもそも雅人は出会いを目的にしたパーティに参加していたのです。

 

確か、別れに傷ついた貫一は全てを捨てて高利貸に手を染めたし、傷つけたお宮の方も自責の念で自殺をしました。"一生モノ"の深い傷を負った人が、出会いパーティに参加して、気になった人に連絡先を渡すなんて、到底できないことのはずです。

 

では、やっぱり。きっと雅人の傷は一生モノではなくて、ちょっとした擦り傷程度のもの。それも、もしかしたら既に"かさぶた"になっているかも知れない。

 

そんなことを思っていたら、雅人の言う「今は恋愛モードじゃない」という言葉も、それは僕に"早く恋愛モードに切り替えて欲しい"という思いの裏返しに聞こえてきました。

 

◎Day -16

 

とは言ったものの、恋愛経験の浅い僕に「短期戦」のためのカードがそれほど揃っていたわけではありません。

 

出来たことと言ったら、自分も雅人のことが"一番"気になっていたという僕の思いを後出しで伝えただけです。「俺は付き合いたいと思ってる」とおまけを付けて。

 

そうやって僕の胸の内をひけらかして無防備になり、後は雅人が首を縦に振るのを待つしかありませんでした。ゲイデビュー3年目とはいえ、「人の気持ちはコントロールできない」ことくらいは、僕も痛いほど経験していましたから。

 

しかし、僕がそんな"手札全開で"ゲームに参加しているというのに、雅人は頑としてのってきませんでした。

 

僕はもどかしくなって「とりあえず付き合ってみない?」なんて、枝豆とビールを頼むようなふざけた告白もしてしまったと思います。もちろん雅人は微動だにしませんでしたけど。

 

ならば雅人の過去にどんなことがあったのかと、それとなく元彼の話を聞いてみるのですが、そっちは尚更ダメ。それまで何でも答えてくれていた雅人が、元彼の話に関しては全く口を割りませんでした。

 

焦っていましたねぇ。このとき僕は。

 

 

そんな「短期戦」を焦る僕の猛攻から逃げるように、雅人が話を逸らしてきました。

 

「明日、サークルの友達と遊ぶ予定があるんだけど、しゅんさんも来ない?」

 

......

 

仕方ない。今日のところはそれで手を打ちますか。

 

 

それを提案された時は、一瞬「どうせだったら2人で遊びたいな」と思いました。

 

でも良く考えてみたら、まだ電話しかしたことのない関係です。

 

この現状を踏まえると、口下手な僕がいきなりお堅い「デート」をして気まずい"失敗"をするリスクを取るよりも、友達と一緒の「遊び」という選択の方が安全であるという気がしてきました。というか、むしろそれこそ正解じゃないかと。

 

さすが雅人。良い判断です。

 

◎Day -15

 

翌日の土曜日。お昼過ぎに渋谷で待ち合わせとなりました。

 

ハチ公口で待っていると、JRの改札口から雅人は出てきました。僕が見る初めての"昼"の雅人です。

 

「あぁ。やっぱカッコいいなぁ」

 

雅人は2人の友人を連れていました。

 

フットサルサークルなんて言ってたから、てっきり僕の高校のサッカー部みたいな、いつも女の子の話をしているようなチャラチャラした感じの子が来るのかなと想像していたのですが、それとは正反対の大人しそうな2人が来ました。

 

「お疲れ。こっちはサークルの友達の『カズ』と『ヤス』!」

「あ、初めまして。しゅ...」

「しゅんさんですよね?!よろしくお願いします!」

 

2人とも既に僕の名前を知っていました。

 

カズは、僕よりも、そして雅人よりも背が小さくて、その分顔も小さくて、それなのに誰よりも大きくクリっとした目を持った「リスザル」みたいな子でした。

 

一方、ヤスは背が僕よりも大きくて、その分横幅も少しあって、開いているのか分からないほど細い一重の目をしていました。また、全体的にまとった柔らかで暖かい雰囲気と少し下がった目尻から、産まれたばかりの子供に目を細める「若パパ」を思わせました。

 

「ちなみにカズとヤスはカップルだよ」

 

雅人が小声で補足しました。

 

あ、なるほど。お似合いだ。

 

そしてすぐに僕は、きっとこの2人とは今後ダブルデートをすることになるのだから仲良くしておかねばと思いました。

 

この日は卓球とカラオケをして、夜は居酒屋で飲むという流れのようでした。

 

というわけで最初は渋谷にある卓球場へ。

 

 

僕は球技全般が壊滅的に下手なのですが、中学は軟式テニス、大学はバドミントンをやっていたこともあって、"ラケット競技"に関してはそれなりの感覚があり、恥はかかないくらいの実力は持っているつもりでした。

 

それに今日の残りの3人のメイン種目はフットサル。足を使うことを生業とした人達です。手と道具を使った卓球というスポーツはきっと不慣れでしょう。

 

「もしかしたら自分が一番上手いかも知れない」

 

そんなことすら思っていました。

 

この時までは。

 

しかし、それはとんでもない間違いでした。

 

僕がペンホルダー用のラケットを選んだのに対して、他の3人が迷わずシェイクハンド用のラケットを選んだ時点で、何となく嫌な予感はしていました。

 

 

「グー・パー」でペアを決め、最初は僕+カズペアと雅人+ヤスペアの試合です。

 

ジャンケンの結果、僕がサーブ、雅人がレシーブになりました。

 

そして、相対して構えを取る二組。

 

それまで和やかな雰囲気で会話していた皆が、急に無言になりました。

 

......

 

ネットを挟んで反対側にいる雅人は、僕が初めて見るような顔をしています。

 

そこにはマシュマロのような柔らかさは全くなく、今にも獲物に飛びかからんとする鋭い目つきをした雅人が、僕の手元を見据えていました。

 

突然、胸がドキドキしてきました。

 

試合に緊張してきたのでしょうか?

 

いやいや。もちろん雅人にです。

 

急に男の、いや"雄"の顔つきになった雅人に、僕はドキドキし始めてしまったのです。きっとあの時の僕は"雌"の顔つきをしていたんだろうなあ。

 

「あぁ。雅人をずっと見ていたい」

 

僕はそんな気持ちを抑えてサーブを打ちました。

 

 

すると次の瞬間です。

 

パンッッ!

 

フロアにものすごい音が鳴り響きました。

 

気づくと雅人側のコートに打ったはずの球が、僕の後ろの床でコツコツと跳ねていました。

 

え?

 

この時、僕はこの後の1時間に起こりうる全てを悟りました。

 

 

だって、あとの展開は言わずもがなでしょう。

 

ただの"繰り返し"ですよ。

 

雅人が雄の顔つきになったかと思うと、次の瞬間球が割れるような音。それがただただ繰り返されるだけです。

 

死ぬかと思いました。

 

その試合が終わり、ペアを変えても結局は同じことでした。雅人の顔が「リスザル」になるか「若パパ」になるかの違いです。

 

その顔が雄の雰囲気を纏ったかと思うと、まもなく甲高い破裂音がフロアにこだますのです。

 

それは僕の知っている卓球ではありませんでした。

 

僕がこれまでやってきた卓球は「じゃ頑張って10回はラリー続けようね。行くよ?せーの!いーち、にーい...」というものでした。僕が卓球だと思っていたあれは、本当は別のスポーツだったのでしょうか。

 

そういえば、僕がサーバーじゃない時は、ラリーらしき小気味良い音が連続して聞こえていたような気がします。

 

でもその最中に僕が捉えたのは「音」だけでした。卓上を往復しているのであろう球を、僕は肉眼で捉えることができなかったのです。

 

そして、僕がサーバーの時に聞こえるのは、なぜか決まって甲高い音が1つ。

 

僕はそんな地獄の中で「あぁバッティングセンターにある投球マシーンというのは、いつもこんな気持ちなのかもしれないなあ」などとぼんやり考えていました。

 

そしてその日以来、僕は「卓球は恥をかかない程度にはできる」という思い込みを捨てました。

 

ぐしゃぐしゃに丸めて。ごみ箱に。

 

 

地獄のような卓球が終わり、カラオケボックスに入った時、僕はようやく人間に戻ったような心地がしました。

 

はあー。 それにしても格好悪いところ見せちゃったな。

 

思わずため息も出たと思います。

 

でも今はカラオケです。

 

カラオケこそ僕の1番の趣味だと言っていいでしょう。学生の頃から1人でも行くくらいカラオケが好きだった僕は、並の人よりは声量もあるし、歌える曲も多いという自負がありました。

 

 

最初はスキマスイッチの『ボクノート』を歌ったと思います。僕はいつもそれを最初に歌いますから。

 

すると歌い終えた時、雅人が「え!しゅん歌上手いじゃん!」と言ってくれたのです。

 

その一言にどれだけ救われたことでしょう。

 

卓球で無様な姿を見せ、僕の仕掛けた短期戦は、その前線が大きく退いたと思われていました。

 

ところが、打ちのめされていた我が軍隊は、まさか敵将・雅人の一言をきっかけに体を起こし、頭の中で反芻するその言葉に、いつの間にか自分が"呼び捨て"で呼ばれていたこと気がつくと、いよいよ完全に士気を取り戻したのでした。

 

 

雅人はBack numberの歌を色々と歌っていました。

 

今では僕の大好きなBack number。

 

そのきっかけは何を隠そうこの雅人です。

 

雅人が歌うBack numberの歌はどれも良い曲だなと思ったのですが、そのうちの『花束』という曲がこの時は特に印象に残りました。

 

「どう思う?これから2人でやっていけると思う?」

「んーどうかなぁ。でもとりあえずは一緒にいたいと思ってるけど」

「そうだね。だけどさ、最後はわたしがフラれると思うな」

「んーどうかなぁ。でもとりあえずは一緒にいてみようよ」

 

そんな男女の問答が歌詞の中にある曲です。

 

僕は男に雅人、女に自分を当てはめて、問答をする自分たちを想像しながら聞いていました。

 

 

カラオケですっかり気持ちの上がった僕は、その後の飲みでも絶好調で、本当に楽しい1日を過ごすことができました。

 

仲良くなったカズとヤスとは「来週は4人でアーティへ行こう!」と約束してこの日は解散しました。

 

「来週のアーティ楽しみだなぁ」

 

僕は帰りの電車の中で、充実感に包まれていました。冬なのにポカポカと身体が暖まっているような気もしていました。

 

でもこの時はまだ知らなかったのです。

 

カズとヤスの図らいとはいえ、まさかあんなことになるなんて。

 

(つづく)

 

★次回のお話:

2週間の恋 (6) - 迎春記

★前回のお話:

2週間の恋 (4) - 迎春記

 

事務連絡

お読みいただきありがとうございます。自分の中では、さすがに何となく折り返した感があります。笑

 

週末の更新はありません。

 

では、良い週末を!