迎春記

― 手持ち無沙汰なあなたにゲイの小噺を ―

2週間の恋 (4)

f:id:heckyeah_dude:20200205192757j:plain

こんにちは!しゅんです。『2週間の恋』第4話です。今日も前回と同じくらい長くなってしまったので前置きは無しです。

  

目次

はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記

第1章  邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記

第2章  予感:2週間の恋 (2) - 迎春記

第3章  再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記

第4章  審議:2週間の恋 (4) - 迎春記

第5章  交流:2週間の恋 (5) - 迎春記

第6章  謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記

第7章  切札:2週間の恋 (7) - 迎春記

第8章  変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記

第9章  勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記

第10章  暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記

第11章  変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記

最終章  帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記

 

今回のお話

第4章  審議

 

◎Day -20

 

二次会からの帰り道、僕が連絡先を交換してくれたお礼をLINEで送ると、雅人から「明日電話で話したい」と返信が返ってきました。

 

正直、少し迷いました。

 

知り合ったばかりの人と電話で話すのが苦手だったからです。

 

でも、せっかくの"勝利"にここで水を差してはならないと思い、僕は了承しました。

 

その頃まだ部署に配属されたばかりで、いつも19時には家に帰っていた僕が、「仕事が終わるのが21時ごろだから電話はその後にしよう」と嘘を付け足したのは、電話をするための心の準備の時間が欲しかったからです。

 

 

昔から人に嫌われないようにして生きてきました。

 

そんな僕にとって、会話というのは自分の思ったことを相手に伝えるための手段ではなく、相手の期待する答えを言い当てるためのクイズのようなものだったと思います。

 

友達と遊ぶ時に「しゅんは何がしたい?」と聞かれれば、相手がその時にどんな遊びが好きかを必死に思い起こしてそれを答えました。

 

話しかけてきた相手が怒った様子であったならば、その原因が分からなくても、まず謝ることにしていました。

 

そして、相手が僕の答えに喜んでくれたり、相手の怒りが静まって喧嘩にまで発展せずに済むと、ホッと胸を撫で下ろすのです。あぁ"クイズ"に正解して良かったと。

 

だから事前情報も非言語情報もない、知り合ったばかりの人との電話というのは、僕にとって超難問クイズに挑戦させられるような緊張感があったのです。

 

それが、今気持ちが傾いているような相手だとしたら尚更。

 

だって不正解は許されないのだから。

 

 

しかし雅人との電話に、そんな心配は全く必要ありませんでした。

 

雅人はとにかく自分から良く話す子だったのです。

 

僕は会話が気まずくならないようにと、心の準備の時間にどんなことを話そうかと"台本"のようなものを頭に思い浮かべていたのに、その台本は表紙すら開かれることがなかったと言えるほどでした。

 

 

雅人は電話で、僕が昨日のフリートークの時間や二次会で聞けなかった色々なことを話してくれました。

 

仕事は学校の先生をやっていること。あんな可愛い見た目をしているのに、子供たちからは"怒ると怖い先生"として通っていること。

 

休日はゲイのフットサルサークルで活動していること。サッカーは高校の時にサッカーの強い学校でレギュラーになれるくらいの実力だったこと。

 

そして、夏にはその真っ白な肌もキレイな小麦色になるということ。

 

僕は相槌を打ちながら、そのマイクの先には雅人のコアラのような可愛い耳があって、雅人の声が聞こえるスピーカーの先には、僕がマシュマロを口渡しした時に見た、あの白くてキレイな口元があるのだということを想像すると、ニヤニヤが止まりませんでした。

 

「あぁ夏の雅人も見てみたいなぁ」

 

雅人との恋がまさか2週間で終わり、夏どころか春の雅人さえ見られないことをまだ知らない僕は、この時そんなことを思っていたのです。

 

 

僕らはその次の日も、またその次の日も電話をしました。決まって21時から2時間くらい。

 

僕は雅人にたくさん質問をしました。

 

趣味は?サークルが無いときは何してるの?え?!カラオケ?俺も好き!何歌うの?えー知らない。聞いてみる!他には?...。

 

雅人が好きなものの中に、自分と同じものを見つける度に、雅人との距離が縮まったような気がしました。そして、雅人が好きなものの中に、自分が知らないものを見つけた時はすぐに調べました。そして、それはすぐに僕の好きなものになりました。

 

◎Day -17

 

4日目の電話の時でしょうか。

 

僕の質問に何でも包み隠さず答えてくれる雅人と、僕はずっと気になっていた問いの"答え合わせ"をしてみたくなりました。

 

「ねぇ。雅人は何であの時俺に連絡先を教えてくれたの?」

 

そう問われた雅人は、まるで趣味でも答えるかのように、あっけらかんとしてこう答えたのです。

 

「そりゃ、あのパーティで一番気になってたからに決まってんじゃん」

 

雅人は"一番"と付け足してくれました。それは僕の想定していた回答を上回る回答でした。もう120点の花丸です。

 

僕は嬉しさが込み上げてきて、そんな気持ちと一緒に「じゃあ俺と付き合おうよ」という台詞が、思わず喉元まで出かかりました。

 

ところが、雅人はそんな僕の台詞を先回りするかのように、次のように続けたのです。

 

「でも実は俺、元彼と別れたばっかりで、今恋愛モードになれないんだよね」

 

花丸を付けようと思っていた手が途中で止まりました。

 

そして、喉元に出かかっていた台詞を、急いで飲み込まなければなりませんでした。

 

 

その日の夜、僕は中々寝付けませんでした。

 

脳内でうるさい"審議"が始まってしまったからです。

 

「短期戦に持ち込むか?それとも長期戦を覚悟するか?」

 

こういう時は過去の経験を振り返れば良いのかもしれませんが、この時僕はまだ1人しか付き合ったことがありませんでしたから、あまり参考にはなるとは思えませんでした。

 

でも他に参考になる経験なんてありませんから、何となく振り返ってみると、そういえば僕とその"元々彼"の馴れ初めは「長期戦」だったなあと思い出しました。

 

そして、そのときは今と逆の状況だったなあということも。

 

その時は「付き合おうと迫る元々彼とそれを渋る僕」という構図だったのです。

 

 

ここで僕の元々彼について、少し昔話をさせて下さい。

 

元々彼の名前は『ショウ』。ちなみにこれは本名です。

 

別れたり戻ったりしながら計4年半付き合い、最後も喧嘩別れではなく"任期満了"のような円満な関係解消でした。

 

この小説の中で本名を語る許可は取っていないけれど、その過去の信頼と実績を踏まえて、これくらい笑って許してくれるだろうと僕が勝手に判断したので、本名を使って話そうと思います。

 

 

ショウ君(当時も"君"付けで読んでいました)は4歳年上で、旅行と自転車が好きな人でした。

 

そのおかげで、やたらと下半身が発達していて、常に日焼けをしていて、それに加えて"競パンフェチ"でした。

 

しかし、ガッシリとした下半身とは対照的に、上半身は僕よりも貧相でしたから、水着を着た姿はお世辞にもスイマーには見えず、一緒に銭湯などに行った際は、冬でも"競パン跡"をくっきりと付けたショウ君の隣を歩くのが、少し恥ずかしいなと思っていました。

 

 

そんなショウ君とは、僕がデビューした直後の飲み会で知り合いました。

 

まだゲイの飲み会に慣れていなかった僕が、隅で愛想笑いだけしていたところ、隣にやって来て「こういう飲み会苦手?」とこっそり話しかけてくれたのがきっかけです。

 

ショウ君と僕はすぐに仲が深まり、当時学生だった僕は、毎日のようにショウ君と晩ご飯を食べるようになりました。そして、間もなくショウ君から告白されました。

 

しかし、そのとき僕は自分の気持ちを答えることができなかったのです。YesともNoとも。

 

確かにショウ君は見た目もタイプだし、話していて居心地が良い人でした。しかし、そのショウ君に対する思いが「好き」という気持ちなのかどうか、恋愛経験ゼロだった僕は自信が持てなかったのです。

 

 

しかしショウ君は、そんな煮え切らない態度を取った僕を、その後も焦らせることはありませんでした。それまでと同じように接してくれました。

 

やがて僕らは、週末は明確な約束をしなくても遊ぶようになり、その日の夜にはセックスをして、月に1度は一緒に旅行に行くようになりました。僕の初めての海外旅行は、中国語の話せるショウ君に連れて行ってもらった「台湾」です。

 

そんな日々を過ごしているうちに、最初こそ自分の気持ちをハッキリさせなければと焦っていた僕も、ショウ君が許してくれている"どっちつかずな状況"に甘えるようになっていきました。そしてショウ君もまた、その頃にはもう"付き合う"ということをハッキリとさせようとはしなくなっていました。

 

 

そんな関係が1年くらい続いた頃だったでしょうか。

 

僕とショウ君、そして『ユウキ』と3人で飲んでいた時のことです。

 

ユウキは僕より3つ年下で、僕とショウ君の共通の友達です。

 

自信家で、頭の回転が速く、誰に対しても物怖じせず、そして無遠慮に上から物を言ってくるようなトゲトゲした奴なのですが、自分に非があったときはすぐに謝ることができる素直さを持っていて、どこか憎めない奴でした。

 

またこの頃、経済学部のくせに数学が苦手なユウキに、理工学部だった僕は数学を教えていたのですが、理解できないところは「どうして?なんでなんで?」といつものトゲはどこに行ってしまったんだと思うくらい、無防備に教えを乞うてくるユウキを、どこか可愛いとすら思っていました。

 

そんなユウキが「ところで、しゅんとショウはさ、付き合ってるわけ?」と尋ねてきました。

 

顔を合わせて答えを濁す僕とショウ君。

 

そんな僕らにユウキはさらにたたみ掛けてきます。

 

「え、ハッキリさせてないの?そういうのってズルくない?互いに都合の良い関係ってだけじゃん」

 

......

 

本当、ユウキはどうしていつもこう図々しく、そして客観的で的確なことを言ってくるんだよ...

 

たじろぐ僕らに、ユウキはさらに続けました。

 

「しゅんはショウのこと好きなんでしょ?」

「...うん。まぁ」

「ショウは?」

「...うん。好きだよ」

「じゃ、はい!」

 

パチンッ。

 

ユウキは僕とショウ君の顔の前で、自分の手を叩きました。

 

「はい!君たち二人は付き合いました!カップル成立。おめでとさん!」

 

ショウ君の顔を見ると、ショウ君は苦笑いをしていました。

 

 

その後も僕とショウ君の間に明確な「告白」がされることはありませんでした。

 

ただ、それまでは「彼氏とはどれくらい付き合ってるの?」と聞かれた時、いつも曖昧な返しで誤魔化していたのですが、その日を境に、僕は明確な期間を答えるようになりました。

 

ユウキが僕らの顔の前で手を叩いたその日を初日とカウントして。

 

付き合っていた「4年半」という期間の初日もその日です。

 

 

話を戻しましょう。 

 

僕の脳内審議では、そんなショウ君の「長期戦」のようなやり方が、今は正解のように思えてきました。

 

白か黒かハッキリさせられない僕をそのまま包み込んで、そしてゆっくりと時間をかけながら僕の居心地の良い濃さの「グレー」を作り出してくれたショウ君の辛抱強い優しさ。

 

きっと前の恋愛で傷つき、すぐに恋愛モードになれないのであろう雅人に対しては、そういう優しさが必要なのではと思ったからです。

 

ところが。

 

深夜の脳内審議の末、僕が出した結論はなんと「短期戦」だったのです。

 

(つづく)

 

★次回のお話:

2週間の恋 (5) - 迎春記

★前回のお話:

2週間の恋 (3) - 迎春記