こんばんは、しゅんです。今週はなんだか寒くなったり、暑くなったり忙しいですね。皆さん、体調を崩されませぬようどうぞご自愛くださいませ。新型コロナウイルスの感染も広がっているようですしね。
さて、そんな僕は『2週間の恋』の執筆開始以来、会社でもこの自作小説のことが頭から離れず、つまらない会議中などにふと「今日はどんな小ネタを書こうかな」なんてことを考えてしまいます。もう会社の工数使ってますよね。笑
でもそんな頭の中での創作活動のおかげで、何となく自分の中では話の全体像が見えてきました。おそらく全5話くらいでまとまるはずです。...僕が途中で飽きるか、はたまた逆に執筆欲が変なハッスルをしない限りですが。
当初は「週1くらい」のペースで出し惜しみをしながら更新していこうかなと思ったんですが、この薄っぺらい話でそんなことをしたら、新しい話を更新した時、皆さんが「あれ前回どんな話だったっけ?」となりかねないので、サクサクやり切る方針にしました。
この話はおおよそ30文字くらいで話しきれるものを、僕が聞かれてもいない自分語りをしたり、ふと思い浮かんでしまった戯言を、安いエビフライの分厚い衣の如く纏わせることで成り立ってますからね。笑
そんな"脂っこい"小説ですが、お時間のある方はどうぞお付き合いください。本日は第2話となります。
あと、第2話から元彼の名前を「まさと」から「雅人」に変更しています。ひらがなにしてしまうと、1文の中のひらがなと漢字のバランスが悪くて、何か文章の見た目が、のっぺりしてるなと感じたからです。これは完全に僕の趣味。物語には全く関係ありません。
目次
はじめに:2週間の恋 (1) - 迎春記
第1章 邂逅:2週間の恋 (1) - 迎春記
第2章 予感:2週間の恋 (2) - 迎春記
第3章 再戦:2週間の恋 (3) - 迎春記
第4章 審議:2週間の恋 (4) - 迎春記
第5章 交流:2週間の恋 (5) - 迎春記
第6章 謀略:2週間の恋 (6) - 迎春記
第7章 切札:2週間の恋 (7) - 迎春記
第8章 変化(1):2週間の恋 (8) - 迎春記
第9章 勝敗:2週間の恋 (9) - 迎春記
第10章 暗転:2週間の恋 (10) - 迎春記
第11章 変化(2):2週間の恋 (11) - 迎春記
最終章 帰結:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
エピローグ:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
あとがき:2週間の恋 (12) 終 - 迎春記
今回のお話
第2章 予感
雅人は白いマシュマロのような子でした。
僕はその頃から「自分の見た目のタイプは髭、短髪、色黒、筋肉を持ち合わせた、いわゆる"イカニモ系"だ」と公言していたんですが、雅人の見た目は全く正反対。
体毛が薄そうな真っ白な肌に、おそらく染めてなくても茶色いのであろうその髪は、風が吹こうものなら、それが例えそよ風だろうとサラサラとなびくのではと思うくらい柔らかそうに見えました。そしてもちろん、なびくに足る長さもありました。
自分のイケメンレーダーが、自分がそれまでタイプだと思っていた見た目と正反対の子を捉えたことに、僕は自分でも驚きました。
そして、これがきっかけとなって、僕はそれまでのゲイ生活の中では自分でも気がついていなかった、自分の"ある一面"を発見するのですが、自覚するのはもう少し後になってからのお話。
■
ホームパーティでは、前半に簡単なアイスブレイクを企画してくれていました。一軒家の大広間にみんなが集まり、部屋の照明を少し暗くして、2つほどゲームをやりました。
最初は「段ボール島耐久レース」です(名前は今僕が適当につけました)。
ルールはこんな感じ。
- 5人1組のチームに分かれる。
- 人ひとり分の大きさに切られた段ボールを床に人数分ならべて「段ボール島」を作り、各チーム全員がその島に乗る。
- ゲームマスターと各チームの代表者が一斉にジャンケンをする。
- 代表者がジャンケンに負けてしまったチームは、島を作っている段ボールを1枚減らされる。
- ジャンケンを繰り返し、最後まで全員が島上に立っていられたチームが優勝
つまり、ジャンケンで負けるたびに、島の領土は狭くなります。だからご想像の通り、負ける度にメンバー同士がより体を寄せ合わなければなりません。初対面の人と密着するのは少し緊張しますが、そこは"優勝"するという共通の目的を全員が持ったおかげか、不思議と抵抗感みたいなものはありませんでした。よく考えたものです。
そして、何と僕はこのゲームで雅人と一緒のチームになりました。
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こういったささいな偶然を、僕は過大に捉えがちです。
見た目でパッと良いなと思った人が、たまたまゲームで同じチームになる。たったそれだけのことなのに、僕は、自分と雅人が結ばれる物語の"歯車"が動き出したような気持ちになっていました。
でも、僕はまだその心の動きを自分でも信じられないでいました。
だって、雅人は僕が今まで魅力を感じてきたことのないタイプの子。僕の気持ちを傾けようとしているこの力は、一体何なのか。雅人の何を感じとって生みだされている力なのか。僕はまだその正体が掴めないでいました。
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このゲームの結果は僕の記憶に残っていません。優勝はしなかったな、ってくらい。
そして、ジャンケンに負ける度に雅人との距離が近づいていったのに、僕はどうしてもその顔を見ることができませんでした。こんだけ目を逸らしたら、かえって不自然だったのではと思うくらい。でも目を合わせたら、何だか僕の気持ちがさらに傾いてしまうような、そんな気がしていたのです。
「恋」という感情に対して、僕の心は実に不思議な振る舞いをします。
それは普段は必死に求めているものなのに、いざ自分の心が傾き出すと必死にそれを食い止めようとしてしまうのです。恋をすることによって、満たされるのと同時に傷つく可能性があることを、僕の心は知っているのでしょう。僕はその恐怖に必死で雅人から目を逸らしました。
それでも目の端でぼんやりと捉えた雅人の顔は、僕よりも少し下にくるということがわかりました。
「あっ...俺より小さいんだ」
このゲームで僕の記憶に残っているのは、そんな身長のことだけです。
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僕と雅人との不思議な偶然はこの後も続きました。
何と2つ目のゲームでも僕らは同じチームになるのです。
2つ目のゲームは「マシュマロ口伝達ゲーム」。この名前も今付けました(ネーミングセンスが無くてすみません...)。
このゲームは簡単です。
今度は1チーム10人。
10人がマシュマロをそれぞれ1つずつ持ち、縦に1列に並びます。そして、前の人から順番に自分の持っているマシュマロを渡していくのです。...その名の通り「口」を使って。
前の人が口で掴んだマシュマロを、後ろの人が口で受け取り、食べる。食べ終わったら、次はその後ろの人が同様にして、自分のマシュマロを後ろの人に口で渡すのです。そうして、列の一番後ろの人が、最初にマシュマロを食べ終えたチームが優勝というわけ。
僕らのチームは、列順をジャンケンで勝った順で決めることになりました。
何となくの「予感」みたいなものがあったのですが、そんなくじ引きのように決めた順番で、僕は最後から2番目、そして雅人は列の最後となりました。
つまり、僕は雅人にマシュマロを口渡しすることになったのです。マシュマロみたいな、あの雅人に。
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もしかしたら、この瞬間かもしれません。
僕の心の"歯車"が動き始めたのは。
高校で「物理」を選択していた人はわかると思うのですが、物体の静止摩擦係数は通常、動摩擦係数よりも大きい値を持ちます。
つまりそれは「静止している物体に対して、それが動き始めるくらい大きな外力を加えてしまうと、同じ大きさの外力を加えている限り、その物体は動き出した上に、加速し続けてしまう」ということです。
どうやら僕の心の"歯車"もまた、そんな自然界の法則には逆らえないようでした。
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合図と共に「マシュマロ口伝達ゲーム」が始まりました。
前の人がマシュマロを受け渡すために振り向きます。そしてその十数秒後にはその後ろの人が。そうやって振り向く顔が、僕に向かって徐々に近づいてきます。
僕はこの期に及んでもまだ、後ろにいる雅人の顔を見ることができませんでした。数分後には互いにマシュマロを口で受け渡し合う運命だというのに、僕は前の様子を気にしているフリをして、決して後ろを振り向かなかったのです。
でも、時間が経つにつれ、流石に前後で並んでいるのに一言も話さないなんて不自然だろと思い始めて、どういう言葉をかけるのが自然かを考えることにしました。
「マシュマロは好き?」
...いやそれ聞いてどうするねん!もし食えないほど嫌いだったら最初からこのゲームの参加を辞退してるだろ!
「渡す次いでにキスしちゃおうかな♡」
...やめろ!キモイわ!お前話すのこれ初めてだろ!前半にたたみかけんな!
「俺、マシュマロの口移し上手いから安心してね」
...嘘つけ!いつ誰と練習したんだよ!TPOによっては犯罪だぞ!
そんな脳内会議の末、最終的に「やばい。緊張してきた...落としちゃったらごめん」あたりが無難だろうと決が取れました。
しかし僕が雅人に声をかけようとした時、僕の前の人がこちらに向かって振り向いてしまいました。時間切れ。僕がマシュマロを受け取る番です。
相手からマシュマロを受け取って飲み込みました。もちろん、味なんてわかりませんでしたよ。
そして、そのマシュマロが僕の喉を通過して胃に到達する頃、それが"その時"です。
それまでガヤガヤとうるさかった室内が、急に静寂に包まれたような気がしました。
マシュマロを口に挟んで雅人の方を振り向きます。
初めて相対する僕と雅人。
僕は決して目だけは合わせないよう、視線を少し伏せ気味にしました。そうすれば視界を何とか雅人の口元だけに抑えることができたからです。
ゆっくりと顔を近づけて呼吸を止める僕。
マシュマロを受け取ろうと少し口を尖らせる雅人。
近くで見る雅人の肌は、本当に白くて綺麗でした。
...
マシュマロの重心が徐々に雅人の方へ寄って行きます。
少しずつ挟んでいた唇の力を抜いていく僕。
その時だったでしょうか。
マシュマロの受け渡しが成功したことに油断して、僕はふと視線を上げてしまったのです。
雅人と目が合いました。
はにかむ雅人。
雅人の瞳は、茶色をしていました。
■
ミニゲームが終わり、フリートークの時間になりました。
何だか頭がぼうっとしていたのは、決してお酒のせいではないでしょう。だってまだその時はそんなに飲んでませんでしたから。
でも、部屋の照明が明るくなり、ゲーム部屋に集まっていた参加者がそれぞれ散っていくと、僕はまるで魔法が解けてしまったような気持ちになりました。
そして僕のそんな感覚は勘違いではなかったのか、結局その後のフリートークの時間でも、僕と雅人は一言も会話することなく、パーティは終わってしまったのです。
既に動き始めている"歯車"が、静かにその速度を上げて始めているというのに。
(つづく)
★次回のお話:
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