これは、読み終わった後に知ったのだけれど、今週買った西加奈子さんの『i』という本、執筆のきっかけは、LGBTの話を書きたいなというところだったらしい。何かちょっと嬉しい。
LGBTが執筆のきっかけだということ自体も嬉しいけど、それを嬉しいと感じた自分に対しても嬉しさを感じる。何だか、自分がゲイとして自覚を持って生きていけているのだなということが確認できた気がして。二重の嬉しさってやつ。せっかくなので、それを知った西さんのインタビュー動画を貼っておく。
-「i」を執筆したきっかけは?
最初はLGBTの話を書きたいなと思っていて、でそのLGBTの中でもどこにも属せない、まだ自分のセクシャリティを決められていない子のための「Q」っていう新しい概念ができたと聞いて、それがすごくいいなと思ったんですね。
でそれをすごく、すごく考えていた時に、私たちがもし何かアルファベットに属すとしたら、一番最初のアルファベットは「i」なんじゃないかなと思って、「i」について書きたいなっと思っていたんです。
その時に思い出したのが、高校生の時に数学の授業で「この世界にアイは存在しません」って数学の先生がおっしゃって、それがLOVEの愛だと思ってドキッとしたんですね。でそこからどんどん繋がっていって書こうと思ったのがきっかけです。
あらすじ
主人公の名は、ワイルド曽田アイ。1988年にシリアで生まれ、アメリカ人の父・ダニエルとその妻・綾子の養子として迎えられたアイは、ニューヨーク・ブルックリンハイツの高級住宅地に住んでいた頃も、中学校に上がり日本に引っ越した後も、両親から限りのない愛情を与えられて、何不自由なく暮らしていた。
しかし、そんな自分の恵まれた環境を思う時、アイは感謝するよりも先に、苦しみを感じるのだった。
「どうして自分なのだろう?」
母国シリアでは内戦により、何万という人が犠牲となっている。母国だけではない。アメリカでの同時多発テロにスマトラ島での地震、そうやって日々大勢の人が亡くなっている。それなのにアイの周りではまるで何も起こっていないかのようだった。
「そうした悲劇から、どうして自分は免れてしまったんだろう?」
「本当は選ばれるはずだった他の誰かの幸せを、自分は不当に奪ってしまっているのではないか?」
アイは頭が良く、そして考えすぎる子だった。だからアイは何か埋め合わせをするかのように、世界起きた大きな事件、災害として報道された犠牲者の数をノートに記録し始める。そして、日本で東日本大震災が起こると、仕事でアメリカにいた両親の元への避難を頑なに拒んだ。"選ばれなかった者"たちの命の危機を語る権利を得ようとしたがためであった。しかし、そんなことをしても、渦中の人の気持ちなんてわかる訳もなかった。
「この世界にアイは存在しません」
数学の授業でたまたま聞いたこの言葉は、そんな自分の存在に自信が持てないアイの心に刻み込まれ、事あるごとに反芻する。本書は、そんなアイが、親友のミナや夫となるユウとの出会いの中で、自分の存在の答えを見つけていく物語だ。
感想
この本は実際に世界で起こったテロ事件や震災が多く取り上げられる。2001年9月11日。テレビに映る、飛行機がビルに突入するという、まるで映画のワンシーンのような映像を両親と一緒に見たあの日。生まれて初めて戦争というものを感じたあの時期。2011年3月11日。前日、友人とオールしていたせいで、14時46分に下宿先のオーブントースターが落下する音で目が覚めたあの日。大学の春休みが5月のGW明けまで延長されて、スーパーで卵と納豆が買えなくなって、TVではあいさつの魔法のCMが繰り返し流されていたあの時期。そんな、あの時の記憶がまだ鮮明に思い出せるうちに読むと、より感じるものが大きいと思う1冊です。